三重知事「片方空ける考え方ある」 エスカレーター持論に疑問の声も

名古屋市で10月、エスカレーターで歩かずに立ち止まることを義務づける条例が施行されたことについて、三重県の一見勝之知事は6日の定例記者会見で「急いでいる人にはエスカレーターの片方が空いていた方がいい、という考え方もある」と持論を展開した。専門家らからは、「そもそも認識が間違っている」と批判の声が上がっている。
一見知事は、県で同様の取り組みを目指さないのか問うと「立った方が良いのかどうかは、科学的・社会的に検証しないといけない。一概に(立ち止まることが)いいとか悪いとか言える話ではない」と述べた。その上で、「障害者や子ども連れの人の意見も聞き、名古屋市の状況も見ながら考えたい」と続けた。
だが、昇降機メーカーなどで作る日本エレベーター協会(東京都)や鉄道事業者は、転倒防止のためエスカレーターでの歩行禁止を呼びかけている。名古屋市は、急ぐ人のために片側を空ける「暗黙のルール」を変えようと立ち止まりを義務づけた。
エスカレーターの立ち止まりについて研究しているアール医療専門職大の徳田克己教授(バリアフリー論)は、「エスカレーターは高齢者や障害者、荷物が多い人など階段を上がれない人のためにある。急いでいる人は階段を使うべきだ」と指摘。「高齢者や視覚障害者がつえを歩く人に蹴られたり、盲導犬を踏まれたりする事案も多く起きている。歩くことを前提としないエスカレーターで歩くことは故障の原因にもなり得るとても危険な行為だ」と述べた。
障害者にとってエスカレーターの立ち止まりは切実な要請だ。鈴鹿市に住む視覚障害者の男性(43)は、「見えないので、エスカレーターで(隣を)走られたり、カバンが当たったりするだけでも怖い」と話す。男性は白杖(はくじょう)を使って移動しており、エスカレーターには介助者と横並びで乗る。通路を塞ぐ形になり「背後で舌打ちをされて不快な思いをしたこともある。名古屋市の条例をきっかけに利用の仕方を皆に考えてほしい」と願う。
名古屋市や2021年に条例化した埼玉県と県では人口規模が異なり、エスカレーターの使用頻度も違うとして「条例化が県でも必要かどうかは議論すべきだ」と男性は考える。とはいえ「知事には『エスカレーターは歩くものじゃない、止まって』と呼びかけてほしい。今の認識だと、ちょっと困る」とあきれていた。【寺原多恵子】

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