奈良・纒向遺跡でチャバネゴキブリの一部検出 世界最古の可能性

奈良女子大と大阪市立自然史博物館の研究チームは11日、邪馬台国の最有力候補地とされる奈良県桜井市の纒向(まきむく)遺跡で、古墳時代前期(3世紀後半)の土層から、チャバネゴキブリの体の一部を検出したと発表した。チャバネゴキブリの発見例としては世界最古となる可能性があるという。世界各地に生息するゴキブリの起源を探る手がかりになりそうだ。
纒向遺跡は奈良盆地東南部に広がる3~4世紀の大規模集落遺跡で、女王・卑弥呼(ひみこ)(248年ごろ没)の墓との説がある箸墓(はしはか)古墳など初期の前方後円墳が点在。過去の発掘調査では計画的に配置された大型建物跡が見つかり、卑弥呼の宮殿の可能性が指摘されているほか、周辺からはイノシシやタイ、サバの骨、桃の種など供物とみられる大量の食物の痕跡が確認された。
研究チームは2018年の調査で検出した古墳時代前期の土層から、ゴキブリの体の一部とみられる微細な破片を見つけ、取り出した。破片は近縁種との比較などから、チャバネゴキブリの背側の胸部にあたる「前胸背板」と呼ばれる部位と断定した。
国内の他の遺跡での検出例も調べ、大阪府の池上曽根遺跡(和泉・泉大津両市)の古墳時代中期(5世紀後半)の土層で検出されたゴキブリの死骸についても模様などからチャバネゴキブリと特定。少なくとも古墳時代には国内でチャバネゴキブリが生息していたとみられる。また、世界各国の遺跡の報告書には、3世紀ごろの土層からチャバネゴキブリの死骸が見つかった例はなかったことから、世界最古の可能性があるとしている。
一方、家庭でよく見られる大型のクロゴキブリは宮崎市の遺跡で出土した縄文時代後期の土器から卵の痕跡が見つかっている。
チャバネゴキブリは体長1~1・5センチで体色は淡い黄褐色。従来は文献史料などからアフリカ北東部が原産とされ、地中海貿易などを通じて欧州や北米に広がり、日本には江戸時代末期ごろに入ったと考えられてきた。しかし、DNA解析などを基にした最近の研究では、東南アジアや日本を起源とする見方も出ていた。
研究チームの宮路淳子・奈良女子大教授(環境考古学)は「国内の他の遺跡でも同様の発見例が続けば、チャバネゴキブリを日本原産とする説を補強する材料になるのではないか」。大阪市立自然史博物館の初宿(しやけ)成彦・外来研究員(昆虫学)は「江戸時代に日本に入ってきたとされていた虫が実はもっと古くから人間の『嫌われ役』を担ってきたのかと想像すると、ちょっと面白い」と話した。
研究成果は奈良県天理市で開かれる日本文化財科学会第40回記念大会で22日に発表される。【吉川雄飛、露木陽介、皆木成実】
祭祀土器捨てた土坑から発見
桜井市纒向学研究センターの寺沢薫所長(考古学)の話 纒向遺跡は当時の日本の首都にあたり、豊かな食生活が営まれていた。チャバネゴキブリの破片が見つかった土坑(穴)は、祭祀(さいし)に関係する土器が捨てられた場所で、中には供え物の食べ物もあっただろう。当時、日本にゴキブリがいれば、当然、交じり込む可能性がある。

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