24日、原発処理水の海洋放出が始まったが、地元漁師の不安の声が多く聞こえた。
東京電力福島第一原発に貯まる処理水を希釈した水の海への放出が、24日午後1時ごろから開始された。処理水は海底トンネルを通り、沖合1km先にある放出口から海に放出された。
漁業関係者からは不安の声
福島県内では、今日の海洋放出がどう受け止められているのだろうか。福島県いわき市から、福島テレビの豊嶋啓亮記者が解説する。
豊嶋啓亮記者: いわき市の小名浜湖は、福島県内で1番の水揚げ量を誇る。いつも通り漁船が係留され、いつも通りの穏やかな海の様子があった。 一方で、24日朝に水揚げが行われたいわき市の漁港では、漁業関係者からの不安の声が多く聞かれた
弘明丸・佐藤文紀さん: ブランド力もついてきたところなので、それで結局魚が安くなっちゃうと、評判も落ちゃうのかなという心配はある。今日(処理水を)流して、消費者だったり、市場の反応をみて、どういう風にやっていけるのかっていうのを模索しながら精いっぱいやっていきたい
今回の放出で、「よくわからないから、1度様子を見よう」という行動が増えることを懸念する専門家もいる。 一方、市場で魚を販売する業者からは「自分たちが福島の魚を流通させることが大切」と前向きな声も聞かれる。
放出に要する期間は“約30年”
ただ、これまで風評被害を経験してきただけに心配は拭いきれない。では、この放出は今後どのような計画で進んでいくのか。経済産業省担当の秀総一郎記者が解説する。
秀総一郎記者: この海への放出は当面は何回かに分けて行われるのだが、24日に始まった第1回目では、7800tの処理水を海水で薄めた上で、17日間かけて放出する。 その後、第2回目でも同じ7800t、第3回目、第4回目と続いていく形だ。放出はいつまで続くのだろうか。
実は、全て放出するには30年もかかることになる。 全てのタンクに貯蔵されているトリチウムの総量は約780兆ベクレルあるとされているが、福島第一原発で決められているトリチウムの年間放出基準の上限は22兆ベクレルだ。 そのため、例えば上限一杯の年間22兆ベクレルを放出するとしても、東京電力の試算では放出に要する期間は約30年かかるとしている。
放出完了には相当長い期間がかかるため、この海域で仕事をする漁業関係者の理解を得ることも重要だ。 そのため、西村大臣だけでも、2022年8月の就任以来、福島をたびたび訪問するなど、繰り返し説明と対話を続けてきた。
なぜ、今回の放出が必要だったのだろうか。
福島第一原発の1~3号機では1日約90tのペースで、放射性物質を含む水、いわゆる「汚染水」が発生している。
この「汚染水」に含まれている放射性物質は、ALPSと呼ばれる専用の設備で除去されるが、それでも取り除くことが難しい「トリチウム」を含む水を「処理水」と呼んでいる。
福島第一原発で保管している処理水は約134万tと、保管できる容量の98%まで使っていることになっていて、東京電力は今のペースで汚染水が発生し続けると、2024年2月から6月ごろには満杯になるとしていて、処理水を処分する必要に迫られていた。
さらに、海に放出する前には、取り除けないトリチウムの濃度を下げるために「処理水」を海水で100倍以上に薄めた上で海に放出する。
今回の放出による人や環境への影響について、東京電力はいずれも極めて軽微だと説明し、原子力規制委員会やIAEA国際原子力機関もこの評価を妥当だとしている。
実際に、IAEA国際原子力機関のグロッシ事務局長も、今回の処理水の海洋放出計画について「国際的な安全基準に適合する」と述べ、「人や環境に対する影響は無視できる水準」と強調するなど、安全性にお墨付きを与えている。
「何も考えないで見切り発車した」
ただ、福島の漁師の方々からは不安の声も聞かれる。漁師の小野春雄さんに、率直な気持ちを聞いた。
榎波キャスター: 海洋放水が始まり、今日どういうお気持ちでしょうか?
漁師・小野春雄さん: はっきり言うんだけど、これは何も考えないで見切り発車したんですよ。怖いですよ。賛成なんて言う人誰もいないんですよ
榎波キャスター: 国はどういう対応をすべきだったかのでしょうか?
漁師・小野春雄さん: 我々と話し合いをすべきでしょってこと。西村経産相が福島に何回も来ている。でも、来ても我々の話を聞いてないです。 (処理水を)流すのはわかりました。でもやっぱり2カ月、3カ月ぐらいの余裕をもって、我々にだって受け入れる体制ってあるでしょう。復興は道半ばですから。全然復興していないですから。みんな、福島県は復興していると思っているけど、全然何にも解決してないですよ
榎波キャスター: 小野さんとしては今後どのようにしていきたいですか?
漁師・小野春雄さん: 死ぬまで粛々と消費者に「福島県の魚はおいしい」ってアピールして、いずれは消費者に分かってもらう。やっぱり今やめたんでは負けですから、やっぱり(漁を)やるしかないですね
放出によっての風評被害を生まないことが何よりも大切だが、東電は賠償する方針を示している。処理水の放出に伴って水産物に風評被害が生じた場合、価格の下落や買い控えによる売り上げの減少分などを補償する形だ。 具体的には、放出前後の価格や観光客数などを踏まえて、東電が被害の有無を認定し、損害額を算定する。諸外国の禁輸措置などで輸出が滞った場合も、賠償の対象となる。10月2日から請求を受け付けるということだ。
中国が日本の水産物輸入を全面禁止
そして、今回の放出を巡って、中国政府は福島第一原発の処理水が放出されたことを受け、日本の水産物を全面的に輸入停止にすると発表した。
中国税関総署は「中国の消費者の健康を守り、輸入食品の安全を確保するため」としている。 また日本産の食品や農産物についても監視を強化したとしていて、水産物以外の検査も強化するとみられる。 中国政府は福島第一原発の事故以降、福島など10都県の水産物を輸入禁止していたが、さらに全面的に禁止した形になる。
日本の水産物の輸出量をみてみると、中国が1位、香港が2位と、この2つの地域で全体の42%を占めている。
水産物の輸入の全面禁止を発表した中国と同様に、香港でも海洋放出について無責任だと批判していて、今は海洋放出に反対して事実上輸入はストップしている状態だ。
ただ、海洋放出するトリチウムの濃度の基準は、国の基準の40分の1、WHOが示す飲料水の基準の7分の1としていて、IAEAも安全性にお墨付きを与えている。
トリチウムの年間放出基準の上限は22兆ベクレルとしている。
一方で、今回の放出に反対している中国でも原発施設でもトリチウムを処分しているが、その数値は112兆ベクレルと、日本の5倍以上となっている。
水産庁は“迅速分析”を行う
海洋放出後、国はどのような取り組みをしていくのか。水産庁担当の砂川萌々菜記者が解説していく。
砂川萌々菜記者: 東京電力福島第一原発では、2022年10月から、海水で希釈したALPS処理水で、ヒラメを飼育している。 希釈した処理水と、通常の海水の両方で飼育し、どちらも差がないことを確認することで処理水の安全性を証明する目的だ。
また水産庁は処理水が海に放出された後に、放出口から約5km付近で獲ったヒラメなどの水産物に含まれるトリチウムの量を短時間で調べる「迅速分析」を行っている。 放出直後の1カ月は、原則毎日調査を行うということだ。
放出後に獲った魚の最新の結果は26日の夕方ごろにも発表される見通しで、安全である結果を出すことで国内外の風評被害を防ぎたい考えだ。
(「イット!」 8月24日放送より)