生後10か月の幼児はなぜ炎天下の車内に放置され死亡したのか。両親の主張によると「勘違い」が悲劇につながった可能性があるという。両親と兄弟を含む6人で訪れ、10か月の喜寿生ちゃんだけが取り残された。最初に父親と知人女性が車を降り、若干の時間をおいて母親グループが降りた。お互いが「相手方が喜寿生ちゃんと一緒に行動している」と思い込んでいたという。認識の“ずれ”はどこで生じたのか、当日の家族の行動を追う―。
◆若干の“時間差”で買い物へ向かった
家族ら6人が乗る黒いワンボックスカーがコストコ(北九州市八幡西区)に入ったのは、26日土曜日の午前10時ごろのことだった。この店舗は、北西側に1か所入口と出口が設けられている。車は出入り口のすぐ近くにとめられた。運転していたのは父親。助手席に長男(5)が座り、2列目には母親と喜寿生ちゃん(10か月)がいた。3列目には家族の長女(3)と知人女性が座っていた。当日の天候は「晴れ」、最高気温は32.9度だった。一行は2グループに別れて買い物することになる。これが悲劇の始まりだった。
最初に車を降りたのは父親だった。到着からまもない午前10時ごろに、まず父親が店内へ。その後、知人女性も店内へ向かった。この時点で車内にいたのは母親グループの4人。母親と長男(5)、長女(3)、そして喜寿生ちゃんの4人だ。“後発組”は、父親たちが出た後、少し時間をおいてから買い物へ向かったという。
◆「相手が連れてきていると思っていた」お互いに思い込んでいたのに“いない…”
到着した時のまま4人が車内で移動していないとすれば、特段の事情がなければ長男は助手席から降りる。そして3列目にいた長女と母親は2列目の出入り口から降りたことになる。喜寿生ちゃんのベビーシートのある2列目だ。しかし、母親たちは喜寿生ちゃんがまだベビーシートにいることに“気づかない”まま、店内へ向かった。後の両親の説明によると、母親グループはこの時、「喜寿生ちゃんが父親グループと一緒に先に店内で買い物しているだろう」と“勘違い”していたことになる。逆もしかりで、父親グループは「後から来る母親グループが喜寿生ちゃんを連れてくるだろう」と思い込んでいたとされている。
こうして生後10か月の喜寿生ちゃんは、真夏の車内にたった1人取り残された。警察によると、▽エンジンはかかっておらず、▽エアコンも作動していない。▽窓は閉まっていたという。記者が28日、同時刻の駐車場を訪ねた。車がとめられていた一角は、店舗の影もなく直射日光がそのまま降り注ぐ場所だった。車内の温度がみるみる上がるのは想像に難くない。父親と母親のグループはそれぞれ約2時間半にわたり“別行動”で買い物し、レジを抜け、フードコートで落ち合った。「相手が連れてきていると思っていた」はずの喜寿生ちゃんがいないことがわかった瞬間だ。母親はすぐに車に向かった。そこには“顔面蒼白”の変わり果てた我が子がいた―。
◆両親の“刑事責任”が捜査の焦点に「故意」「過失」
喜寿生ちゃんは救急車で病院に運ばれたものの、まもなく死亡が確認された。司法解剖で死亡原因は特定されなかったものの、警察は熱中症か脱水症で死亡したとみている。救急科専門医で薬師寺慈恵病院の薬師寺泰匡院長は、ニュースサイトのコメントに「子ども、特に乳幼児は体温調節機能が未発達です。汗を出す機能が未熟で、体温の調節が出来ず、体に熱がこもりやすくなります。また、体重に占める水分の割合が成人より高いため、外気温の影響を受けやすい」と記している。
奪われた命は戻ってこない。両親は刑事責任と向き合うことになる。一般的に保護責任者遺棄致死の容疑は”故意”が前提なので、そもそも故意だっかか、あるいは過失だったかなどが捜査の焦点となりそうだ。警察は、今後の捜査の結果を踏まえた上で、両親を保護責任者遺棄致死や重過失致死などの疑いで立件することを視野に捜査を進めている。