北海道東部で暴威を振るい、地元住民と酪農家を恐怖に陥れたヒグマ「OSO18」がついに駆除された。足かけ4年に及んだハンターと「黒いモンスター」の長き戦いは終焉を迎えたが、近年、道内ではエサを求め人里に現われるヒグマが増加。人への危害が懸念されている。
7月30日午前5時。朝靄に包まれた釧路町の放牧地に、3発の銃声が響き渡った。ハンターが仕留めたのは体長2m10cm、体重330kgの雄のヒグマ。後のDNA鑑定で判明したその正体は、2019年から今年にかけ道東で66頭の放牧牛を襲い32頭を惨殺、最初の事件現場となった標茶町オソツベツの地名と、残された足跡の幅から「OSO18」と呼ばれ恐れられたヒグマだった。
北海道猟友会標茶支部長の後藤勲氏が語る。
「OSO18は普通のクマと違って牛を襲ってもほとんど食べず、まるで遊び半分で殺しているように見えました。極めて警戒心が強く人の動きも熟知しているようで、目撃情報もほとんどなかった。車が通る道でもドライバーの目が届かない場所を選んで歩くような賢さがあり、ハンターにとっては厄介かつ不気味な存在でしたね」
OSO18の行動範囲は広く、東京23区の約1.6倍の面積がある標茶町のほか、隣接する厚岸町でも牛を襲い続けた。事態を重く見た道は対策班を結成。町役場やハンターとともに捕獲を試みたが、OSO18は人間をあざ笑うかのように神出鬼没を繰り返した。
だが、傍若無人に暴れ回ってきたOSO18にも、ついに年貢の納め時がやってきた。
「7月28日に釧路町でヒグマの目撃情報があり役場が警戒に当たっていたところ、30日に再び現われた。ハンターを見ても逃げようとしなかったため、危険と判断し駆除を決断したそうです。クマは他の個体と戦ったのか、顔に大きな傷を負い衰弱していたという。その弱々しい姿から、ハンターは駆除したクマがOSO18だと気付かなかったといいます」(後藤氏)
OSO18は駆除後に解体、冷凍保存された。肉の一部は道内のジビエ業者の手にわたり、その後、都内の飲食店で熊肉として提供されたという。8月に行なわれたDNA鑑定でその正体が判明したわけだが、4年にわたり地元住民を恐怖に陥れたモンスターの最期は、あまりにあっけないものだった。
かつて道内のヒグマは減少を続け、1990年には5200頭を数えるほどだった。だが、同年に冬眠中や冬眠明けのクマを狙った「春グマ駆除」が廃止されると個体数は増加の一途をたどり、2020年度は1万1700頭に倍増した。近年はエサを求め人里に下りてくるケースが急増。市街地を徘徊し人を襲う事例も発生している。
ハンターの高齢化が進み、動物愛護の観点から駆除に厳しい目が向けられる時代、前出の後藤氏は警鐘を鳴らす。
「ひとまず決着がつき安堵しましたが、この地域にはヤツより凶暴で大きな若いクマや、DNAを受け継いだ子供がいるかもしれない。4~5年前に人を襲ったクマも未だ捕獲されておらず、油断はできません。OSO18騒動は、クマが人里に近づいていることを再認識するきっかけになったはずです」
野生動物との「距離感」を見誤ってはいけない。
※週刊ポスト2023年9月8日号