一連の新型コロナウイルス対策で政府の有識者会議のトップを務め、8月末に退任した尾身茂・結核予防会理事長らが14日、日本記者クラブ(東京)で記者会見した。尾身氏は足元の感染状況について「全国的に今のいわゆる第9波はピークに達していない」と指摘。「救急医療などに負荷がかかっている。冬にかけて気がかりだ」と述べ、特に高齢者らハイリスクの人を守る対策が今後も重要になると語った。
政府は、9月1日の内閣感染症危機管理統括庁の発足に合わせて「新型インフルエンザ等対策推進会議」のメンバーを刷新。尾身氏は8月末まで推進会議の議長で新型コロナ対策でも有識者のまとめ役を担ってきた。記者会見は日本記者クラブが活動の総括を要請して開かれた。
尾身氏は「記者会見で話すのは今日が最後だろう」と述べた上で、新型コロナ対策は「これまで経験した中で最も難しいものだった」と説明。「唯一絶対の正解がない中で私たちが試みたことは、できるだけ科学的に合理性があり、多くの人に理解、納得してもらう提言を作ることだった」と振り返った。
さらに「感染症に限らず日本社会は今後もさまざまな苦難に直面することがあると思う。専門家の知見を社会でどう活用していくか、私たちの試みが反省も踏まえて今後のより良い対策に生かされることを祈念する」と語った。
同じく推進会議の委員だった岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は、新型コロナ対応の反省点として「大人中心の考え方になっていて、子どもへの配慮が非常に乏しい状況がしばしばあった」と話した。
武藤香織・東京大医科学研究所教授は、人工呼吸器や病床が不足した場合の優先順位の決め方や、どのような場合に面会やみとりの制限が正当化できるのかなど、難しい判断の多くが現場任せにされてきた点に触れ「今日の記者会見は一つの区切りだが、この感染症と共存しなければならない事実は変わらない」として、国として今後も議論を進めるよう促した。【横田愛】