医師の宿直を労働時間から除外、労災認められず 「ここまでやるか」

患者の急変対応からみとりまでを担った宿直は、労働時間ではないのか――。東京都内の病院に勤務していた50代の男性医師がくも膜下出血を発症して寝たきりの状態になり、2019年に過重労働で労災申請した。ところが、宿直業務は労働時間から除外する扱いとなった上、日常業務も精神的負荷が軽いと判断され、労災は認められなかった。
22日に都内で記者会見した男性の代理人を務める弁護士の川人博・過労死弁護団全国連絡会議代表幹事によると、男性はこの病院の緩和医療科で唯一の臨床医として、外来や入院の患者に対応していた。
くも膜下出血を発症したのは40代だった18年11月。翌19年10月に三田労働基準監督署に労災を申し立てたが、業務上の災害と認められなかった。男性側は決定を不服として、東京労働局の労働者災害補償保険審査官に審査請求するも、22年12月に棄却が決定。今年2月に国の労働保険審査会に再審査を請求し、決定を待っている。
男性側がパソコン上に残る記録などから確認した時間外労働時間は、発症前の1~6カ月が毎月126~188時間に上り、月80時間とされる「過労死ライン」を超えていた。月3、4回あった午後5時15分~翌朝8時半の15時間15分の宿直時間では、みとりや急に容体が悪くなった患者の対応をしていた。
だが、労基署は宿直時間のうち、6時間は「仮眠が取れた」として差し引いた。審査官は、宿直を「待機を主とする状態でほとんど労働をする必要のない勤務」と評価して、宿直時間の全てを労働時間から除いた。
過重労働を巡っては、厚生労働省が21年に脳・心疾患の労災認定の基準を改定し、過労死ラインだけでなく労働時間以外の負荷要因も総合的に評価するとしている。この点についても労基署、審査官とも認めなかった。
男性は民間企業の研究員として働きながら猛勉強し、医学部に入り直して医師になった。会見では、男性の妻が弁護団を通じて出したコメントを発表。「志半ばでの出来事でした」と振り返り、「小学生の我が子から『ずっと帰って来られずに病院にいなきゃいけないのに、働いていないと言われるの?』と聞かれる。子どもたちにも胸を張って説明できる判断を」と訴えた。
川人弁護士は会見で「労働時間の過小認定の行きつく先で、ここまでやるかという話だ」と批判した。
医師や過労死遺族らでつくる「医師の働き方を考える会」の中原のり子共同代表は「医師の業務の過酷な実態、当直の過重性が、労働行政で理解されない現状がある」と指摘する。
24年度に医師に時間外労働の規制が適用される「医師の働き方改革」に触れた上で「過重労働で医師が力尽きる社会から変革していかなければ」と語った。【宇多川はるか】

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする