旧ジャニーズ事務所を代表する一人、元V6の岡田准一が、東山紀之社長や井ノ原快彦副社長が「ジャニーズ事務所の名称を『SMILE-UP.』に変更する」と会見したその直後、退所することを公表した。
私は、次に退所する大物は「木村拓哉」になるのではないかと思っている。なぜなら、東山が社長になる新会社はタレントのマネージメントに特化したものになる。ジュリー景子氏は一切関わらないそうだから、今さら、キムタクが新会社に移る理由が見つけられない。
週刊文春(10月5日号)にこんなエピソードが紹介されている。
来春放送予定だった木村拓哉主演のスペシャルドラマ『教場』(フジテレビ系)の制作が延期になったというのだ。その理由が、
「スポンサーが集まらないなどと言われましたが、問題は木村さん自身のモチベーションです。
今年春の連ドラ版が平均視聴率10%を切り、大コケ。さらにここにきて、ジャニーズの問題が大きくなり、上がってきた脚本の出来も悪く、木村さんが『今はそのタイミングじゃないよね』と言い出して延期が決まりました」(制作スタッフ)
キムタクにとっては、「今が退所するタイミング」だと思っているのではないのか。
さて、10月2日に行われたジャニーズ事務所の2回目の会見について書きたい。
結論からいうと「またも会見は失敗した」といわざるをえない。その理由は3つある。
ひとつはジュリー景子氏が欠席したこと。2つ目は賠償を求める被害者の数が会見の時点で325人にもなったため、前回の会見ではジュリー氏と東山氏が口をそろえて「法を超えて」補償するといっていたのに、今回は裁判官の経歴を持つ3人の弁護士でつくる被害者救済委員会が算定するといい出した。
民事裁判を基準にした金額しか支払いませんと暗にほのめかしているのだ。性加害の賠償額は400万円程度といわれている。これからも被害者がさらに増えることは間違いないので、“出費”を抑える方向へ舵を切った。そう思わざるをえない。
3つめは、ジュリー氏も東山氏も(東山氏は顔を少し歪めながら)、ジャニー喜多川の性加害ついては「知らなかった」「噂は聞いたかもしれないが、自分は現場を見たことがない」といい続けていることだ。
嘘も100回いい続ければ真実になるとでも考えているのだろうか。“鬼畜”のようなジャニー喜多川事件を葬り去る前に、2人の責任を明確にしなければいけない。そうでなければ2人の背中には「ジャニー喜多川の犯罪を知っていて見逃がした人間」という“下げ札”が一生付いたままになる。
少し詳しく会見について書いてみたい。
前回の9月7日の会見はジュリー社長が出席して大騒ぎしたが、今回のテーマは「ジャニー」の名前が消えることにあった。
前回の会見後、なぜジャニーの汚れちまった名前を残したのだという批判が高まり、犯罪者であるジャニー喜多川を賛美するような事務所とは手を切る、という企業が続出した。
テレビは相変わらず、煮え切らない対応に終始しているが、CMが入らないために、やむをえず番組を延期せざるを得なくなった局も出てきている。
NHKは、このままでは暮れの紅白にジャニタレは出さない、ゼロになる見込みだと発表した。
そうなれば紅白の視聴率はさらに下がるだろうが、今年限りで紅白をやめてもいいという腹積もりがNHK側にあるのだろう。
さて、ジュリー前社長は欠席したが、東山紀之社長は何を語ったのだろうか。
「故ジャニー喜多川氏の性加害問題を巡り、ジャニーズ事務所は、社名を『SMILE-UP.』に変更すると発表した。創業から61年。『ジャニーズ』という名称は、芸能事務所の名前以上に、一つのアイドル文化を指し示す言葉として社会に広く定着していたが、存続を認めない世論の強い反発を受けて消滅に追い込まれた」(朝日新聞デジタル 10月2日 14時37分)
この「SMILE-UP.」。SNSでは「スマップ」と略せると話題になっているようだ。
ここは被害者の救済・補償だけに特化する。ジュリー氏がすべてを差配し、役目が終われば即廃業するという。
新会社はタレントのマネージメントのためのもので、社名は今後ファンたちから公募するという。ずいぶん悠長な話だ。
東山社長は、これまで被害者の方に何人会われたのかという会場からの質問に「3人」と答えた。9月7日から20日以上もあったのに、たった3人だけ。彼がこの問題をさほど深刻に考えていない証左ではないだろうか。
それとも、多くの被害者たちと直接向き合えば、彼らの口から「ジャニー喜多川のお稚児さんだったではないか」「なぜ、横で寝ていた僕を、ジャニー喜多川の魔の手から救い出してくれなかったのか」と詰問されるのを恐れて、そういわない被害者に絞り込んだため、3人しかいなかったのだろうか。
欠席したジュリー氏からのメッセージを井ノ原副社長が代読した。それはこう始まる。
「ジャニーズ事務所は名称を変えるだけでなく、廃業する方針を決めました。これから私は被害に遭われた方々への補償や心のケアに引き続きしっかり対応させていただきます。
叔父・ジャニー、母・メリーが作ったものを閉じていくことが、加害者の親族として、私ができる償いなのだと思っております」
叔父であるジャニー喜多川の性加害については、
「ジャニーと私は生まれてから一度も2人だけで食事をしたことがありません。会えば普通に話をしていましたが、深い話をする関係ではありませんでした。
ジャニーが裁判で負けたときもメリーから『ジャニーは無実だからこちらから裁判を起こした。もしも有罪なら私たちから騒ぎ立てるはずがない。本人も最後まで無実だと言い切っている。負けてしまったのは弁護士のせい』と聞かされておりました。当時メリーの下で働いていた人達も同じような内容を聞かされてそれを信じていたと思います」
母親のいうことをそのまま信じる、ずいぶん素直ないい子ではないか。
だが、母親のメリーについてはこんな記述もある。
「そして母メリーは私が従順な時はとても優しいのですが、私が少しでも彼女と違う意見を言うと気が狂ったように怒り、叩き潰すようなことを平気でする人でした。
20代の時から私は時々、過呼吸になり、倒れてしまうようになりました。当時、病名はなかったのですが、今ではパニック障害と診断されています。
私はそんなメリーからの命令でジャニーズ事務所の取締役にされておりましたが、事実上、私には経営に関する権限はありませんでした。そして2008年春から新社屋が完成した2018年まで、一度もジャニーズ事務所のオフィスには足を踏み入れておりません」
そしてこういい切るのだ。
「ジャニーズ事務所を廃業することが、私が加害者の親族としてやりきらねばならないことだと思っております。ジャニー喜多川の痕跡を、この世から一切なくしたいと思います」
叔父であるジャニーとの関係はその通りだとしても、母親であるメリー氏と“不仲”だったというのはにわかには信じられない。
ジャニーズ事務所の後継者、東山をジュリーの婿にと考えていたと、メリー氏の“母親愛”はこれまで何度も報じられてきた。
極め付きは文春(2015年1月29日号)の「ジャニーズ女帝怒りの独白5時間」だった。
マネージャーとしてSMAPを国民的スターに育て上げた飯島三智氏を、文春記者の面前で罵倒、SMAPをこき下ろしたのである。
「だって(共演しようにも)SMAPは踊れないじゃないですか。あなた、タレント見ていて踊りの違いってわからないんですか? それで、そういうことをお書きになったら失礼よ。(SMAPは)踊れる子たちから見れば、踊れません」 「この人(飯島氏)はSMAPが長すぎているのかもしれませんね」 「悪いけど私、飯島に踊りを踊れる子を預けられないもの」
怒りはさらに激しくなる。ついには、
「文春さんがはっきり聞いているんだから、対立するならSMAPを連れていっても今日から出て行ってもらう。あなたは辞めなさい」
飯島氏はこの後事務所を退所し、SMAP解散のきっかけになったといわれている。そこでメリー氏は後継者についてもハッキリこういい切っている。
「もしジュリーと飯島が問題になっているなら、私はジュリーを残します。自分の子だから。飯島は辞めさせます。それしかない」 「飯島が(娘の)ジュリーと対立するということは(中略)私に刃を突きつけているのと同じですからね」
ジュリー氏が書いているように、メリー氏は直情径行なところはあった。だが、弟のジャニーと娘のジュリーはどんなことがあっても私が守る。それが時には、娘と衝突し、抜き差しならないところまで娘を追い込んだことはあったとしても、それはメリー氏なりの愛情の示し方であった。娘もそれはわかっていたに違いない。
年商1000億円、資産も800億円といわれるジャニーズ帝国を築き上げても、信頼できるのは身内しかいない。「他人は敵」、それが戦前・戦後の激動の人生を生きてきた喜多川姉弟の譲れない一線だったのではないか。
私の想像だが、この文章を書き終えて、ジュリー氏は母親と叔父の墓前に頭を下げたのではないだろうか。
2人を悪者にしなければ、この人生最大の危機は乗り越えられない。許してください。そう亡き母と叔父に詫びたのでは……。
ジュリー氏同様東山社長も、「ジャニー喜多川の性加害については知らなかった。気づかなかった」で通そうという腹なのがよくわかる。
ジャニーズ事務所の名前を消す。その事務所は被害者の補償をすべて終えた後、廃業する。補償は11月から始める。
新会社はタレントたちのマネージメントをする会社で、タレント一人一人と契約を結ぶ。
被害者の数は478人から被害申し出があって325人が補償を求めている。
会見は大体このような内容だったが、私にはまだまだ納得できないことが多々ある。被害者への補償は「法を超えてやる」といっていたにもかかわらず、今回は弁護士を引き連れ、補償額はこれまでと同様のケースに照らし合わせてなどといいだした。被害者の多さに驚き、額を少しでも少なくしようという意図が見え見えである。
文春(9月28日号)で追及された「事業承継税制の特例措置」問題。
「二〇一八年にできた特例措置が適用されれば、株式の相続税や贈与税が猶予され、実質ゼロにできるのです(中略)相続税をゼロにするには、申告期限の翌日から五年間、代表取締役を務めないといけません。(中略)なぜ、五年間かというと、後継者育成に最低五年は必要とされているからです。(中略)つまり二〇二五年五月まで、ジュリー氏は代表取締役を務める必要があるのです」(板倉京税理士)
文春によると、その節税額は800億円にも上るという。まさに究極の相続税逃れである。
だが今回、ジュリー氏は手紙の中で、
「ジャニーとメリーから相続したとき、ジャニーズ事務所を維持するためには事業承継税制を活用しましたが、私は代表権を返上することでこれをやめて、速やかに納めるべき税金をすべてお支払いし、会社を終わらせます」
800億円以上の相続税を払うことができるというのだから、ジュリー氏の資産は一体いくらあるのだろう。
新会社になっても100%株主はジュリー氏だが、その後、廃業するにあたって、その株はどうなるのだろうか。一部では、補償会社であるうちにどこかへ売り払うのではないかという見方もあるようだが、社名は変わってもそんなケチの付いた会社を買うところがあるのだろうか。
最後に、何度もいうが、東山社長はジャニー喜多川の性加害について、自分は噂として聞いてはいたが、ジャニー喜多川の性加害は知らなかったといい張っている。だが、ジャニー喜多川の“お稚児さん”として有名だった東山社長が、何も知らないというのはいかにも不自然である。
ジュリー氏と東山社長のこの“言動”が真実かどうか、外部の識者(弁護士、それもヤメ検である必要はない)による第三者委員会を立ち上げ、徹底的に調査してもらったらどうだろう。
「SMILE-UP.」と新会社のトップが、ともに「疑惑」を抱えていては、企業側の理解をえられないこというまでもない。
会見を見て、私はこう思った。ジュリー前社長が1人で会見に臨み、すべてを洗いざらい話し、非を認め、被害者たちに許しを請うことしか道はないのではないか。
性加害の調査も道半ば。新会社の社名もファン頼み。資本金はどうするのかも不透明。幼馴染のようなジュリー氏と東山氏しか人材がいないのか。具体策はジャニーの名前を消しただけでは、今回の会見も失敗だったと断じざるをえない。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)