衝撃事件の核心 医療機器1本使用で1万円 がん研汚職、医師の背徳

医療機器1つ使うごとに1万円が入ってくる-。国立研究開発法人「国立がん研究センター東病院」(千葉県)を巡る贈収賄事件では、収賄容疑で逮捕された医師が金銭目的で特定メーカーの機器を選んでいたことが判明した。業界では医師への支出を開示するなど透明化を進めている一方で、贈賄側企業では公然と利益供与を認める契約が許されていた。
1本使用で1万円
警視庁捜査2課が収賄容疑で逮捕したのは、東病院の元肝胆膵内科医長、橋本裕輔容疑者(47)。橋本容疑者の逮捕容疑は、令和3年5月ごろ、贈賄側の「ゼオンメディカル」(東京都千代田区)が販売する医療機器「ステント」を優先的に使うなどの便宜を図った見返りに現金約170万円を受け取ったとしている。贈賄容疑でゼオン社の前社長、柳田昇容疑者(67)も逮捕された。
ステントは血管などを内側から広げるために挿入する機器で心疾患などの治療に用いられる。捜査2課によると、東病院ではゼオン社が製造・販売しているステントだけでなく、他社製のものも置かれていた。橋本容疑者は手術で使う医療機器の選定・使用の権限を有し、優先的にゼオン社製を使っていた。
正当な契約を偽装
逮捕容疑となった約170万円の賄賂は、橋本容疑者とゼオン社との間で結ばれたステント使用に関する契約に基づいて支払われた。契約は、医師が使用した機器の有効性や改善点を業者側にフィードバックする「市販後調査(PMS)」の名目で、ステント1つにつき1万円を支払うことになっていた。賄賂は約150本の使用に対して支払われていた。
捜査関係者によると、当時社長だった柳田容疑者は社員に高い売り上げ目標を課していたという。目標達成のため、営業担当者らがPMS名目で報酬を支払う手法を発案したとみられ、柳田容疑者もそれを承認していたとみられる。
また、ゼオン社ではこのPMS契約を「みなしPMS」と呼んでいたという。「みなし」という言葉の通り、社内では調査が形骸化し、不正な資金提供であることを認識していたとみられる。
ある医療機器メーカーの関係者は、PMSで橋本容疑者が約150本を使用したことについて「PMSは症例の縛りなどがあり、1つの病院ではデータが集まりづらい。このため、複数の病院でやってもらうことが多く、一病院で使った数としては多すぎる」と指摘し、調査の実態を疑問視した。
捜査2課もそうした点などを総合的に考慮し、ゼオン社と橋本容疑者との間で結ばれたPMS契約に実態はないと判断したとみられる。
健康被害未確認も
捜査2課によると、逮捕容疑となった約170万円は令和2年度分のステント利用契約に対する支払いだったという。一方で、捜査関係者によると、平成31年度分の契約もあり、ゼオン社側から橋本容疑者に対して百数十万円が支払われていた。捜査2課はゼオン社による不正な営業攻勢が常態化していたとみて、ほかにも不正がなかったかを調べる。
捜査2課によると、ゼオン社のステントを優先利用されたことにより、患者が健康被害を受けたことは確認されていないという。
ただ、ある捜査幹部はこう指弾した。
「医師は患者の症状に応じて最善のものを選び、使う必要がある。一歩間違えれば患者の命にかかわり極めて悪質だ」(宮野佳幸)

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