【闇バイト】法廷で語られた特殊詐欺グループ“恐怖支配”の実態 かけ子の女は無報酬で「ゲロを吐いてでも仕事しろ」と強要

2022年12月に起きた、広島市の貴金属店での強盗殺人未遂事件。
10月3日、今村磨人容疑者、渡辺優樹容疑者、藤田聖也容疑者の3人が、事件を指示した疑いで再逮捕されました。
3人が関与していたとみられる、広域強盗事件の捜査が進む中、8月18日に、フィリピンを拠点にした特殊詐欺グループ内で、うその電話をかける「かけ子」役をしていた、山田李沙被告(27)に対して、懲役3年の実刑判決が下されました。
将来への不安を感じ、SNSで「闇バイト」を検索。組織から勧誘を受けて、フィリピンに渡ったという山田被告。 闇バイトをきっかけに特殊詐欺グループに入り、共犯者らと共謀し、高齢者2人からキャッシュカードを盗み、現金約414万円を引き出すなどの窃盗罪に問われていました。
なぜ闇バイトに関わり、犯罪組織から抜け出せなくなってしまったのか。その実態を山田被告の裁判から読み解きます。
軽い気持ちで…闇バイトに応募してしまう人の共通点
闇バイトの「かけ子」山田李沙被告に下った懲役3年の実刑判決。 この判決について、弁護士ドットコム代表取締役社長の元榮太一郎弁護士は「妥当」だと話します。
元榮太一郎弁護士: これはもう妥当ですね。組織的な特殊詐欺事件というのは、裁判所も非常に厳罰にする傾向がありまして、「かけ子」のような組織の末端の人が“初犯”であっても、実刑になることが多いです。類似の事件を見ましても、このような400万円くらいの引き出しをしているということであれば、だいたいこのくらいの量刑相場になってきます。
――他にも関与が疑われた場合、さらに刑がそれぞれついていくと? 元榮太一郎弁護士: そうですね、さらに追起訴されて、裁判されて、量刑が加算されていきます。
今回、山田被告は「闇バイト」だと分かったうえで応募し、犯罪に手を染めることになりましたが、弁護士ドットコムには、同様に軽い気持ちで「闇バイト」に応募し、抜け出せなくなってしまったという相談が相次いでいるといいます。
相談者によると、闇バイトに連絡をしてみたものの、思い直して「やっぱりやめます」と断りました。しかしその後、闇バイト側から、保証金や罰金を払えと連絡が。 この時点で相談者は犯罪に関与していませんが、「取り立てるぞ」と脅されているといいます。
――闇バイトと知って応募したケースだけではなく、高額バイトだと思い応募、個人情報も知られてしまったという場合どうすればいいのでしょうか? 元榮太一郎弁護士: やはりSNSで短期間・高収入のバイトというのは非常に危険ということです。個人情報等も取られてしまうと、非常に心配なところがあると思いますけど、まずは「全力で断る」。そして、一切の連絡を無視する。さらに警察への相談ですね。110番で相談をすると、例えば近隣のパトロールをしてくれたり、引っ越しの助言、サポートをしてくれるとか、いろいろ手厚いサポートを受けられると思いますので、とにかく警察に相談することがいいのではないですかね。
――家族に被害が及ぶのではないかという事もあるかとは思いますが、そのようなケースはあるのでしょうか? 元榮太一郎弁護士: 家族の情報が取られてしまった場合には、その可能性もあるのですが、ただそういう所につけ込んで、どんどん重大な犯罪に引きずり込んでいくというのが彼らの常とう手段なので、そこはやはり勇気を出して、警察に相談して前に進むしかないと思います。
――闇バイトに応募してしまう人の共通点というのは? 元榮太一郎弁護士: お金に困っている人。SNSでの闇バイト募集が多いので、比較的若い人ですね。インターネットを使っている人が多いです。さらに、やはり彼らもそこら辺は認識して「違法性はない」と安心させるようなセールストークを使ってきますから、そういったところの判断力が少し弱っている。お金に困ると弱りがちですが、そもそも法律にあまり詳しくない人も少なくないので、そういった「違法性」「法の知識」みたいなところが、やはりちょっと意識がない人が多いのかなという感じがします。 短期間・高収入、そんな虫のいい話は世の中にはないというふうに胸に刻んで。
山田李沙被告「犯罪の自覚無かった」
山田被告らは、フィリピンでどのような生活を送っていたのか。 初公判での被告人質問によると、毎日のように午前8時~午後5時まで、遅いときは夜中の1時まで売り上げるために電話をしていたといいます。
詐欺グループのメンバーは、そんな山田被告について、「仕事は熱心だった。最初売上げは少なかったが途中から“無双状態”だった。毎月1000万円を超える金額をだまし取っていた」と語っています。
山田被告は、“かけ子”は「電話をするだけで犯罪の自覚がなかった」と話しており、逆に、「周りの人が喜んでくれて、人生で初めて認められたのでうれしかった」と言います。 “かけ子”としての報酬はありませんでしたが、幹部からほめられ、プレゼントや現金を受け取ったり、藤田聖也容疑者などとともに、知事やマフィアのボスと酒やカラオケを楽しむことも。
人生で初めて認められた相手が、“犯罪組織”だったという山田被告。公判で弁護側から、なぜ今までまっとうな仕事ができなかったのか問われると、「高校生の時、バイトの面接で、父親がいなくてシングルマザーだったことで、『まともな人間に育っていないからここでは働かないで』と言われ、自分はまっとうなところでは働けないんだと思ってしまった」と語っています。
どれだけ働いても“無報酬”「殺すと脅され」
組織から報酬を渡されていなかったという山田被告。要求しなかった理由を、「上の立場の人は怖い存在だったので、言えなかった」といいます。 また、稼ぎが良かったことで休むことも許されず、藤田容疑者から、「お前は、ゲロ吐いてでも仕事しろ」と言われたそうです。
組織を辞められなかったわけを問われると、「一度『殺す』と脅され、逃げ出す勇気が持てなかった」「ホテルから逃げた男性が心臓発作を起こし、薬を与えられず放置され死亡届を出した時は、それを聞いて殺人だと思った」とも証言しています。
被害者のことは考えなかったのかと問われると、「ホテル代を組織に負担してもらっているので元を取らないと、と当時は思ってしまった」と釈明し、被害者のつらさは、「逮捕された今感じている」と語りました。
――報酬をもらえないということは多いのですか? 元榮太一郎弁護士: もらえないことの方が多いです。組織の末端の実行犯ですから、すぐにでも切り捨てられるわけです。そういった意味では、何かに理由をつけて、お金を払わないで、それで個人情報を取ったうえで脅して、さらに重大な犯罪を重ねさせるという彼らのやり口です。 そういう意味では、本当に報酬はもらえないと思った方が。
もし「闇バイト」に関わってしまったら
「闇バイト」とは知らずに応募してしまった場合、どうすればいいのか。 弁護士ドットコムに寄せられた実際の相談を例に取ると、「荷物を受け取りそこから配送するというバイトをしないか?」とSNSで誘われ、一度は引き受けた相談者。
しかし、もう一度誘われた際は、家から少し遠いこともあり「やめたい」と伝えたところ、相手側の態度が一変。顔写真とか提示して「警察に突き出す」と脅されました。 相談者が謝罪したところ、今度は卑猥(ひわい)な動画や画像を送れと、いろいろな命令付きで要求され、脅されているといいます。
――どうしたらこのような状況から抜け出せますか? 元榮太一郎弁護士: 正常な判断が失われているような状況につけ込んで、卑猥な動画や画像を送れと。さらに脅しの材料を入手しようということだと思うのですが、本当に勇気を出して、まずしっかりと断って、警察に相談ですね。仮に何らかの行為に加担してしまった場合でも、自首という形で警察に自首すると、実刑じゃなく執行猶予が付くようなケースもありますし、勇気を出して警察に相談。これが第一かなと。
「闇バイト」による強盗や特殊詐欺事件などを受けて、警察庁は、匿名の通報制度の対象と金額を拡大します。
これまで暴力団、薬物、特殊詐欺、児童虐待などに関する匿名の通報には、最大10万円の情報料が支払われてきましたが、10月から新たに「闇バイト」の募集などを行う犯罪グループなど通報の対象に加えられ、犯罪組織の壊滅に結びついた場合は、最大100万円の情報料が支払われます。匿名通報は、電話や警察庁のホームページから行うことが可能です。
元榮太一郎弁護士: やはり金額的なところが上がると、積極的な情報提供が期待されると。実際に、2007年に起きたリンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件の市橋達也受刑者が、逮捕されるきっかけになったのも、特別報奨金が100万円から1000万円に変わってわずか半年でと。 事件から2年半たって何も手がかりはなかったのに、1000万円に上げたところ、半年で逮捕までたどり着いたと。効果はあると思います。
(めざまし8 10月10日放送)

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