文部科学省は、宗教法人法に基づき世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令を東京地裁に請求した。裁判所の審理を経て解散命令が確定した場合、教団は法人格を失って税制優遇が受けられなくなる。専門家は財政難から教団は縮小するとみる一方、資産が清算されるために被害者救済が難しくなる可能性があると指摘している。
文科省が13日に東京地裁に出した解散請求の申立書は、遅くとも1980年ごろから教団による高額献金や霊感商法の被害が繰り返されたと認定。被害規模は約204億円(約1550人)に上るとし、同法が解散要件とする「法令違反」などに当たると判断した。
東京地裁が解散命令の適否を判断し、不服があれば最高裁まで争える。教団は「国から解散命令を受けるような教団ではない。裁判において私たちの法的な主張を行っていく」と反発し、結論が出るまで長い時間を要する可能性もある。
急いだ解散請求、良い面とそうでない面
宗教法人は、信者が集まる礼拝施設などの固定資産税は免除され、さい銭やお守りといった宗教活動に関する収入も非課税。駐車場経営など収益事業についても税率は抑えられている。
宗教法人法の手続きでは、解散命令が出ると、法人格が取り消されるために預金や不動産など財産の清算が必要になる。裁判所が選んだ清算人が、債権の取り立てや債務の弁済を済ませ、残った財産は法人規則に使途の明記がなければ、国庫に納められる。解散命令後も、税制優遇のない任意団体としては活動できる。
宗教と法律の関係に詳しい近畿大の田近肇教授は「旧統一教会が法人格を失えば、信者が集まる場所を自前で用意できなくなるかもしれない」とし、宗教活動にダメージが出ると指摘。「税制上の優遇措置がなくなり、あらゆる金の動きが税務当局に把握されやすくなる。問題のある方法で資金を集め、使ってきたのであれば従来のようなやり方はできなくなる」と話す。
一方、田近教授は、法人の消滅に向けた手続きが進むことで、高額献金などのトラブルに遭った被害者の救済が困難になる可能性がある点を懸念する。そもそも自身が被害を受けていることに気づいていない信者がいる可能性や、手続きの負担から債権の申し出を見送るケースも想定される。
田近教授によると、解散命令が出た場合、教団に対して債権を持っている人は財産の清算中に申し出る必要がある。全ての清算を終えた時点で法人としての教団は消滅するため、その後に自身の被害に気づいたとしても、賠償責任を負わせる機会は失われるという。
オウム真理教が起こした地下鉄サリン事件でも、こうしたケースで救済されない被害者が生じたといい、「旧統一教会の問題でも、対応を考えるには時間がかかる。解散請求を急いだことは、良い面とそうでない面がある」と話す。
珍しくない地下化・先鋭化するケース
解散命令を受けた宗教法人が任意団体になると、活動の形はどのように変わっていくのか。京都市在住の僧侶でジャーナリストの鵜飼秀徳さんは「小さくなった宗教団体の活動が地下化、先鋭化するケースは珍しくない」と指摘する。教団に対する社会的な批判や任意団体への「転落」といった出来事がかえって信者同士の結束を強める契機になりかねないためだという。
鵜飼さんは「都市部での活動が難しくなった教団がどこかの地方に根を張ることで、住民とのトラブルが起きることも考えられる。教団と地域との溝が深まれば、信者や『宗教2世』の人々が孤立し、被害救済が一層難しくなるおそれがある」と話す。【李英浩】