中学受験の有名塾で、女子児童が講師に下着を盗撮される事件が起きた。その画像を、数十人にも及ぶ仲間とチャットで共有していたことも明らかに。相次ぐ身近な大人から子供への性被害。こども家庭庁は、犯罪歴を確認できる「日本版DBS」を塾などでも活用できるようにする方針を示した。卑劣な犯行を防ぐことはできるのか。
塾の講師が教え子に
「記者を名乗る者から、娘の氏名や住所がネット上に上がっているといわれた」
8月初旬、被害を知った女児(9)の家族が、警視庁に相談した。警視庁は捜査を開始し19日、強要と東京都迷惑防止条例違反の疑いで、進学塾大手「四谷大塚」の元講師、森崇翔(そうしょう)容疑者(24)を逮捕した。四谷大塚も10日に事件を知り、当日中に森容疑者を懲戒解雇していた。
森容疑者は、今年5月ごろ、教え子だった女児を1人、授業のない日に指導の名目で教室に呼び出したとみられる。
「やる気がないならお仕置きする」と脅し、床に体育座りさせた女児に、わいせつな言葉を口にさせた。女児は下着が見える状態で、森容疑者はその様子を胸ポケットに隠したスマートフォンで撮影していた疑いが持たれている。
森容疑者は調べに対し、この女児だけでなく「教え子の女児十数人を盗撮した」と供述。さらに、数十人が参加するSNSのチャットで、盗撮した動画や女児の氏名や住所などの個人情報を送信していたことも分かった。
安全対策に追われる塾
事件を受け、四谷大塚は全教室にカメラを設置し、保護者がリアルタイムで教室の様子を確認できる「ライブモニタリングシステム」を約3カ月近くかけて設置すると発表した。また、講師の採用にあたっては、新たに心理テストや性格テストを活用するなど、「再発防止に努める」としている。
他の塾も安全対策を講じる。中学受験大手のサピックス小学部では、ほとんどの教室に防犯カメラを設置し、受付のモニターで確認できる状態にしているという。廊下からも室内の様子がわかるよう、教室の扉には大きめの窓を設置したり、換気を兼ねて扉を開けておいたりして、「密室にしないようにしている」という。
講師の採用にあたっては、面接やアンケートを通じて、犯罪歴がないかを確認。サピックスの広野雅明教育事業本部長は「子供たちが危険な目に遭わないよう、一層、徹底しなければならない」と語った。
日能研でも、全教室に防犯カメラを設置、講師などに対し「コンプライアンスに関する研修を実施している」という。
日本版DBS
一方で、犯罪を完全に防止することへの難しさを指摘する声もある。ある塾関係者は「採用面接で、志望者が危険人物であるかを見抜くのは難しい」と話す。「個人情報保護の観点から、『過去に性犯罪をしたことがあるか』などと聞くのははばかられる」という。
そうした中で注目を集めているのが、子供と接する職業に就く人に性犯罪歴がないことを確認する「日本版DBS」だ。
日本版DBSは、英国の制度を参考に、学校や塾などが教師や講師を採用する際、政府が構築する犯罪照会システムで確認できる制度。こども家庭庁は、保育所や幼稚園、学校などには確認を義務付け、学習塾やスポーツクラブなどは任意とする方針を固めている。秋に見込まれる臨時国会に関連法案を提出する。
対象となる性犯罪は、不同意わいせつ罪など、刑法犯を中心に検討されている。ただ、憲法が保障する「職業選択の自由」に相反するという見方もあり、同庁安全対策課は「有識者会議を開き、慎重に検討している」としている。(橘川玲奈)