東京・銀座の高級腕時計店に仮面姿のグループが押し入った事件で、東京地裁は25日、実行役の男(18)に実刑判決を言い渡した。多くの人が行き交う繁華街で白昼堂々と行われ、世間に衝撃を与えた犯行。公判で浮かび上がったのは、逃走経路も定まらず、無謀とも言える強盗計画に報酬欲しさで安易に加担した若者の姿だった。(糸魚川千尋)
「15万円の借金があって切羽詰まっていた。報酬がもらえれば1回で返済できると思った」
東京地裁で今月8日に行われた初公判。実行役の一人として強盗などの罪で起訴された男は、幼さの残る表情でそう語った。
被告人質問での説明によると、犯行に加わったきっかけは、5月6日に小中学校時代の友人から「仕事をやらない?」と誘われたことだった。報酬額は100万円。あまりの高さに「特殊詐欺ならやらない」と答えると、「詐欺じゃない」と否定された。リスクがあると分かれば「いつでも断れる」と考え、詳しい内容は聞かずに引き受けた。
その仕事は急に決まった。翌日、友人から「仕事先の人と連絡を取ってほしい」と携帯電話を渡された。
翌8日。「目的地に車がとまっている」「車には指紋を付けないで」「偽名を名乗って」といったメッセージが携帯電話に次々と届いた。
不自然な内容に「冗談かな」と思いながらも、指定された神奈川県内の「目的地」に向かうと白いワゴン車があり、面識のない3人と出会った。リーダー役(19)から「(仕事は)強盗だ」と伝えられ、「俺たちは強盗のプロ。失敗するやつはヘボだ」と畳みかけられた。さらに「あなたのです」とナイフを渡され、店員を脅す役割を命じられた。
ただ、リーダー役も電話で何者かに「到着予定時刻」などを報告しており、背後に首謀者グループがいるのは明らかだった。「組織が絡んでいて、逃げられない」。男はそう思ったという。
当初の狙いは東京・上野の時計店だったが、周囲に警察官がいたため断念。午後6時過ぎ、銀座の中央通りに到着した。ターゲットはガラス張りのロレックス専門店。運転手役(19)を残し、リーダー役らと仮面をかぶり、車から降りた。
検察側の冒頭陳述などによると、男は店に入ると店員にナイフを示し、「伏せろ、ぶっ殺すぞ」と脅迫。リーダー役らがバールでショーケースを壊し、中の商品を次々とバッグに入れた。
わずか2分間の犯行で奪ったのは、高級腕時計など74点。販売価格は3億円を超える。だが、うまくいったのはそこまでだった。
男によると、リーダー役の指示で車は赤坂方面へ向かったが、道は行き止まり。「逃走!」というリーダー役のかけ声で車外に走り出たが、まもなく捜査員に見つかった。マンションの塀の上によじ登って逃れようとしたものの、あっけなく逮捕された。被害品の大半も近くで回収された。
男は取り調べで黙秘を続けた。法廷で検察官から理由を問われると「話した内容がリーダー役に伝わるのが怖かった」と釈明し、「やりたくなかったが、従わないと危害を加えられると思った。生きた心地がしなかった」と声を震わせた。
男は通っていた高校を事件後にやめたが、今は大学進学や語学留学を目指しているという。最終意見陳述で「人の道に反したことをして本当に申し訳ない。この先の人生では正しい判断をしていきたい」と謝罪した男に対し、蛭田円香裁判官はこの日の判決で「安易に犯行に及び、刑事責任は重大だ」と告げた。
「特定少年」強盗も刑事罰
事件では、実行犯として少年(16)を含む4人が逮捕され、家裁送致された。男とリーダー役、運転手役の3人は検察官に送致(逆送)された後に起訴され、運転手役の公判も11日に始まった。一方、リーダー役の公判期日は決まっていない。
昨年4月施行の改正少年法では3人のような18、19歳を「特定少年」と位置づけ、一定の厳罰化を図った。
家裁が原則として逆送するのは、従来の〈1〉「故意に人を死亡させた事件」だけでなく、〈2〉「死刑、無期または1年以上の懲役・禁錮の犯罪」も加わり、強盗なども対象となった。公判では更生の観点から刑期に幅を持たせていた「不定期刑」も適用されなくなった。
最高裁のまとめでは、昨年4~12月に〈2〉で逆送された特定少年(家裁送致後に20歳を超えた者を含む)は計25人。強制性交などが11人と最も多く、強盗致傷が8人などとなっていた。
元裁判官の広瀬健二・元立教大教授(刑事法)は、「法改正の趣旨に基づき、重大犯罪を起こした18、19歳を大人並みに扱うのはやむを得ない。法改正が犯罪を抑止するという期待もあったが、理解が進んでいない面もあるのではないか。特定少年は、重い責任を負う場合があることを自覚する必要がある」と話す。