国の天然記念物「奈良のシカ」の保護活動に取り組む一般財団法人「奈良の鹿愛護会」が、保護した鹿に十分な餌を与えない虐待行為をしているとの内部通報が同会の獣医師からあり、奈良市保健所は3日午後、動物愛護法に基づく立ち入り調査に乗り出す。通報では愛護会の施設内で毎年50頭以上が死んでいるとしているが、愛護会は「虐待していない」と否定している。
愛護会は、奈良公園内にある奈良県所有の施設「 鹿苑 」で計約340頭を保護。このうち公園周辺で農作物を荒らすなどしていた鹿約240頭は、一般公開していない「特別柵」の中に収容している。
通報したのは愛護会に勤務する丸子理恵獣医師。今年8~9月に市と奈良県に送付した通報書では、特別柵に収容された雄鹿は最低限の餌も与えられず、7割以上が飢餓状態に陥り、年50頭以上が死んでいると指摘している。また、体重が低下し、脱毛も見られ、水飲み場も汚れているとし、「鹿にとってストレスがかかる環境だ」としている。
丸子氏は取材に「愛護会に改善を求めたが、受け入れられなかったため、公益通報した」と話した。
一方、愛護会の山崎伸幸事務局長は「餌は毎日与えている」と反論。特別柵の鹿が毎年死亡していることを認めた上で、「野生の鹿はストレスで死亡することが多い」と説明している。
通報を受け、市は3日午後、鹿苑に立ち入り調査し、愛護会の管理体制や鹿の健康状態などを確認する。鹿苑の管理を委託している県も、すでに愛護会への聞き取り調査を実施しており、山下真知事は2日の記者会見で「管理許可の取り消しも含め、今月中に調査結果を報告する」と述べた。