「小説パクった」主張の青葉被告、何を語る 瀕死のやけどから回復、連日出廷へ 京アニ事件5日初公判

36人が死亡した令和元年の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人や現住建造物等放火などの罪で起訴された青葉真司被告(45)の裁判員裁判が5日、京都地裁で始まる。平成以降最悪の犠牲者を出した殺人事件の発生から4年。公判では被告の刑事責任能力の有無やその範囲が最大の争点になるとみられる。自らも大やけどを負い、一時瀕死(ひんし)状態だった青葉被告が何を語るかも注目される。
「京アニが俺の小説をパクったんだ!」
令和元年7月18日午前、青葉被告は全身やけどで搬送される直前、こう叫んだという。その後の調べでも京アニに恨みを抱いた理由として「作品の盗用」を一貫して主張。実際、京アニの公募に小説を送っていた形跡はあったが、形式審査で落選しており、同社は盗用を否定している。
京都府警は事件から約10カ月後の2年5月、複数回の皮膚移植手術を経て、会話は可能になった青葉被告を逮捕。京都地検は半年間に及ぶ鑑定留置後、責任能力はあるとみて起訴に踏み切った。
責任能力の有無、範囲が争点
青葉被告は事件当時、放火に使用したガソリンの他に、事前に調達した柳刃包丁6本を所持、計画的な犯行だったことをうかがわせる。一方で、青葉被告が動機に挙げる「盗用」と大量殺人の実行には一般常識に照らして飛躍があることも否定できない。過去には精神疾患での通院歴もあり、弁護側は心神喪失による無罪もしくは心神耗弱による刑の減軽を求めるとみられる。
青葉被告は逮捕後の2年6月、京都地裁で開かれた勾留理由開示手続きにストレッチャーに横たわりながら出廷。事件後初めて公の場に姿を見せた。当時は自力で起き上がれず、食事や排泄(はいせつ)にも介助を要した。現在は車いすで移動できるまでには回復したとされる。
起訴状によると、青葉被告は元年7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区の京アニ第1スタジオにガソリンをまいてライターで火を付け、36人を殺害、32人を負傷させたとしている。
143日間の長期審理
京アニ事件の裁判員裁判は来年1月25日の判決まで最大32回開かれ、審理は143日間に及ぶ。
事件の重大性や犠牲者数の多さに鑑み、主要争点を、事件全般▽被告の刑事責任能力▽量刑-の3つに区分。検察・弁護側双方が証明しようとする事実を説明する冒頭陳述は、通常は1回のところを争点ごとに3回行う計画だ。
公判関係者によると、9月を中心に青葉真司被告の被告人質問を約10回にわたり集中的に実施。被害者参加した遺族が直接質問する機会もある。証人尋問では、被告の鑑定を行った医師や京アニの八田英明社長も出廷するとみられる。
また通常1回の「論告・弁論」も2回予定。11月中に責任能力に関し検察側の中間論告と弁護側の中間弁論を行い、非公開の中間評議で結論を出す。その後、死刑求刑も予想される量刑についての最終論告、最終弁論を経て判決が出される。
公判では複数の犠牲者が匿名で審理される見通し。実名が原則だが、被害者の名誉や社会生活の平穏が害されるなどと裁判所が判断した場合、氏名や住所といった「被害者特定事項」を秘匿できる。関係者によると、京都地検が6月に開いた遺族向け説明会では複数が匿名審理を希望した。
長期審理に備え、地裁は裁判員6人に加え、補充裁判員を上限の6人選出。初公判には多数の傍聴希望者が訪れると予測され、地裁は近隣の京都御苑の広場を抽選会場にして開廷2時間前から整理券を配布するなど法廷外でも異例の体制で臨む。
近畿大の辻本典央教授(刑事訴訟法)は、京アニ事件の審理計画について「分かりやすい裁判を実現しようという裁判所の配慮・工夫がみてとれる」と評価。一方、青葉被告の体調面に配慮する必要もあり「円滑なやりとりができるかなど、裁判が始まってみないと分からない手探りの部分がある。事件の注目度の高さもあり、運営に気を使う裁判になるだろう」と指摘した。

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