自転車ロードレース「ツール・ド・北海道」の死亡事故は、8日で発生から1か月…事故車両とは別の車も通行規制中のコースを走行していたことがわかりました。その車が載せたカメラで撮影された映像を見た選手は「運営側に大きな責任がある」と憤っています。
9月8日午前11時37分ごろ、上富良野町の道道で、国内最大規模の自転車ロードレース「ツール・ド・北海道」に出場していた中央大学の4年生、五十嵐洸太(いからし・こうた)さん21歳が反対車線の乗用車と正面衝突し、死亡しました。
この事故のため、今年の大会は、3日間(9月8~10日)の全日程が中止…事故による中止は、37回目の大会史上、初めてです。
警察によりますと、現場はカーブが連続する片側1車線の山間路で、自転車の走行車線は、警察が公式に規制、事故車両が走行の反対車線は、大会側で警備、規制していました。
大会を主催、運営する公益財団法人「ツール・ド・北海道協会」は、現場のコースについて「監督会議などで反対車線への自転車のはみ出しを禁止していた上、反対車線は車両の通行を規制していた」と説明。
現場のコースの通行規制は、午前10時40分~午前11時45分…その後の警察の調べで、事故は、この規制の時間内だったものの、規制終了が迫る中で発生していたことが特定されました。
・警察への通報 午前11時51分 ・消防への通報 午前11時43分 ・事故発生 午前11時37分
また、協会の調査で、事故発生現場は、スタートから71.5キロの地点、その1.7キロ手前のポイントで、五十嵐選手は、先頭から4分49秒遅れていたことなどもわかりました。
五十嵐選手の自転車と衝突した事故車両を運転の63歳の男性は、警察に対し「(コース内にある)吹上温泉に向かうため、規制前だったので、そのまま通行した。現場近くの駐車場で、レースを見た」などと話しているということです。
9月19日に初めて開いた記者会見で、協会は、事故車両がコースに入った時間などについて「調査中」をくり返しましたが、その後の取材に対しては「規制後に入ってきたとは、ちょっと考えづらい」とする見解を示しました。
これに対し、協会の説明に疑問を抱き、憤る選手からの情報提供で取材をすすめると、事故車両とは別の車も通行規制中のコースを走行していたことがわかりました。
その車は、車窓からの風景などを撮るカメラを載せていて(ドライブレコーダーとは別)、映像を検証すると、協会側の警備などが“ずさん”と言わざるを得ない実態が明らかになりました。
その車の男性によりますと、まず、コースの入口前に立つ警備員と通行規制前に言葉を交わしましたが、特に詳しい説明がなく、止められた認識もなかったので、コースに向かうと、2人目の警備員もスルー…ドライバーの目につく看板なども見当たりません。
次に、コース内の警備員、その次の警備員は、既に通行規制に入っていたと思われるのに、2人ともスルー…ここでも、通行規制が一目でわかる看板などはありませんでした。
やがて、車は、レース中の選手を先導する何台ものバイクとすれ違いますが、皆、右手を上げて、左側に寄るようなジェスチャーをしただけだったので、男性は「走行するな」の指示までとは思わず、走行を続けたといいます。
また、立ち止まったり、引き返してきたりして、停止を求めたバイクはありませんでした。
そして、道路わきに駐車していた事故車両の横を通過…これでは、走行していた車を見て、事故車両の男性が「通行規制が終わり、もう走行してもいい」などと思い込んでしまった可能性が否定できません。
さらに、映像には、追い越しをかけたわけではないのに、猛スピードもあってか、センターラインからはみ出したり、センターライン上を走ったりする自転車が相次ぎ、セイフティーネットとして、反対車線の通行規制が必要だったことが伺えます。
出場していた選手の一人は、一連の映像を見て「ガードマンは全く役割を果たしていない。先導のバイクも手を振って通り過ぎるだけ。運営側、協会に大きな責任があるのは明らか。はみ出した選手の過失が大きいとされるのは、同じ選手として納得できない」と憤ります。
それでは、五十嵐選手は、なぜ、反対車線にはみ出したのか?
HBCは中央大学の広報室に対し、今回は、下記の質問にYesかNoだけでも自転車競技部の監督や選手に回答してもらえないか、依頼しました。
・初出場だった五十嵐選手は、事前にコースの試走、下見はしていた? ・チーム内で片側走行の徹底、監督などからの指示はあった? ・片側走行は“原則”で、勝負を仕かける“一瞬”は、はみ出しも止むを得なかった?
しかし、中央大学の広報室からは「この度のご依頼につきましても、大変、申し訳ございませんが、ご対応いたしかねます」という回答でした。
事故から1か月…協会は、今のところ次の正式会見の予定はないとしながらも、レースの素材提供に応じるなど、広報の実務者レベルでは「このままではいけない」という姿勢を見せています。
また、今後の安全対策などを検討する第三者委員会を立ち上げ、交通工学の専門家など、下記の5人がメンバーに決まったと発表しました。
・甲谷 恵 公益社団法人 北海道交通安全推進委員会 筆頭副会長 ・萩原 亨 北海道大学 大学院工学研究院 教授 ・林 辰夫 アジア大陸自転車競技連合 理事 ・宮澤崇史 2008&09年のツール・ド・北海道で優勝 元自転車プロロードレーサー ・武藤俊雄 北海道大学 公共政策大学院 准教授
一方、警察は、協会や事故車両の男性から事情を聴くなどし、刑事責任を問えるだけの過失があるのか、捜査を続けていますが、逮捕案件ではないので、事故車両のドライブレコーダーの有無など、途中経過は明らかにしないとしています。