世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の元信者の30代の男性が産経新聞の取材に応じ、いまだ途切れない教団の〝呪縛〟への苦悩を明かした。家族は現役の教団信者で、自身も学生時代は、言われるがまま布教活動にいそしんだ。16日の教団の会見を「自分たちは悪くないと主張しており、非常に不快だった」と断じた上で、「苦しんできた人すべてが報われてほしい」と、高額献金など被害回復に向けた政府の引き続きの取り組みを求める。
教団の学生会長
男性は会社員として働き、結婚し、子供にも恵まれている。傍目には、ありふれた家庭。だが、ふとしたときに、「あのとき」の苦しみが鮮明によみがえってくる。
熱心な旧統一教会信者の家庭に生まれた。幼稚園の頃から、教団の教えが書かれた子供向けの本を読んできた。《人類はサタンの子》《教祖は人類を救う救世主》。今なら首をかしげたくなる内容だが、当時は難なく受け入れた。
家には高額な教団関連の物品がいくつもあった。救済されるために必要と言われ、親族が購入したものだった。寄付なども含め「少なくとも1億円は教団に納めていた」。
高校生だった17歳のとき、地域の教会の「学生会長」に抜擢。同世代の2世信者のまとめ役となったが、「学校内では同級生と価値観などが合わず孤立していた。教団の活動に全振りだった」。部活など普通の青春を過ごすことはなかった。
精神に支障をきたしたのは、それからほどなくしてからのこと。他の2世信者が脱会しないよう徹底した指示が下った。
教会の職員から、教義普及や浸透に向けた努力が足りないとハッパをかけられた。旧統一教会では信仰を捨てると「地獄に落ちる」と教えられており、「(お前が)2世の命の責任を負え」と迫られた。男性は重圧に耐えきれず、不眠症や拒食症を発症、自傷行為も繰り返した。
「当時は病気という認識はなく、霊的なものだと思っていた」。結婚を決めた21歳ごろ、実家を離れ、教団からも距離を置くように。ただ、現在もフラッシュバックや過呼吸に襲われる。最近、複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。
両親「会いたい」
2世や元信者らが教団による被害実態を明かすのには、勇気がいる。だからこそ、今回の解散命令請求について、「(教団が)よくないことをしていたと、世間が認めたということ。全国の2世たちが声を上げたことが、報われた気がする」と喜ぶ。ただ、今後、命令を経て解散が確定したとしても、「熱心な人は残る。信仰は完全には消えない」とクギを刺す。
今でも両親からは、「孫に会いたい」と連絡がくる。拒否したいが、妻は「子供から祖父母を奪うのはかわいそうだ」との思いがあり、時折、両親宅へ子供たちを向かわせている。両親は孫に教義を伝えているが、そのたびに、「それは違う」と訂正している。
血縁は切れない。離れようとしても、離れられない。
教団は16日の会見で、組織性や継続性はないと主張。男性は思う。「教団へ人生の半分以上をささげてしまったことへの絶望感が増した。今回の動きを機に悪事を徹底的に暴いて、すべての被害者が報われてほしい」