政府が海洋放出の開始を決めた福島第一原発の処理水。政府が苦心してきた問題のひとつが、中国や韓国のSNSなどでのニセ情報の拡散です。放出反対の声や不安視する声が根強くある背景にもなっているために政府は神経を尖らせています。
日本政府はどのような対策を取っているのでしょうか。水面下では時間勝負の攻防戦が…。
(報道局政治部)
7月、岸田首相が弾丸外交でヨーロッパと中東を歴訪している頃、東京・霞が関には、韓国や中国で発信されるSNSと連日向き合う政府関係者らがいました。
「海外での情報操作は甘く見ていると大けがを負う。すでに傷は広がっている」
政府内では処理水の海洋放出を8月にも行うことを模索していましたが、安全性をめぐる誤った情報やニセ情報が拡散されていることに政府関係者は危機感を強めていました。当時、韓国の世論調査では8割近くが安全性を不安視し、このままでは実際に放出が始まった後、さらに反発が広がる恐れがありました。
では一体、どのような対策を取っていたのでしょうか?
実は外務省内では去年秋、海外のSNSを見回ってニセ情報を探すチームを立ち上げていました。関係者はこう話します。
「主に見ているのは、X(旧Twitter)ですね。そこで何かを見つければ省内の各地域課に連絡して対処します。ネガティブな情報やニセ情報は拡散するスピードが速く、一刻を争います」
「ニセ情報に表だって反論するのは逆効果なのであまりしませんが、あの件では反論しました」
あの件とは、6月に韓国のネットメディアが拡散させた情報です。日本政府がIAEA(国際原子力機関)に政治献金し、安全性を評価する報告書を作成させたとするもので、外務省幹部の発言のメモだとする出所不明の文書に基づくものでした。日本政府は即座に『事実無根で、無責任な偽情報流布に強く反対する』とコメントを発表しました。
「そもそも外務省にあのような事実がないので偽情報なのですが、文書を担当課で見てもらったら、韓国語で作った文章を日本語に機械翻訳したような表現になっているのがすぐにわかりました」
また在外公館はそれぞれの地域のテレビや新聞の報道ぶりもチェックし、誤った情報に手を打ちます。香港では誤った情報を伝えていたローカル新聞に、安全性を伝える広告を出したといいます。
その対象はアジアのみならず、ヨーロッパメディアのSNSの内容に対しては反論するコメントを投稿したといいます。誤情報を事前に防ぐために積極的な情報発信も行い、「#STOP風評被害」を展開したり、福島の魅力を伝えるポジティブ情報をネット上に積極的に流していったともいいます。
日本政府は、中国政府が国際会議の場などで処理水を「核汚染水」と表現し、ニセ情報を拡散していると警戒を強めています。このため科学的根拠に基づき処理水の安全性を伝える動画を英語や中国語、韓国語バージョンで制作したほか、在東京の海外メディアを福島に案内するツアーを開催し、国際的に理解を得ようとしています。
ただ、中国のSNSでの偽情報は存在し続けています。拡散されたイラストには、「正常」と書かれた冷却水が安全に放出されている一方、「福島」と書かれたイラストには、壊れた炉心からあふれ出た放射性物質が何の処理もされずに放出されているように描かれています。
処理水の放出が始まった後にこそ、日本産の食品の風評被害を食い止めることは大きな課題です。情報空間での駆け引きは続くことになりそうです。
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