24日に開始された東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を巡り、政界を引退した自民党の原田義昭元環境相が産経新聞の取材に応じ、放出計画に理解を示す韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に「感謝している」と述べた。反発を強める中国政府に対しては「非科学的な主張だ」と批判した。原田氏は環境相在職中の令和元年9月、政府が処理水の処分方法を決める前に海洋放出を記者会見で公然と主張し、先鞭(せんべん)をつけた。
「騒がず、福島の水産物を食べて」
──処理水の放出が始まった
「よく政治が決断してくれたと思う。岸田文雄首相は、このまま毅然とした態度で臨んでほしい。懸念される風評被害は科学的根拠に基づかないデマによって生じる。危ないと騒げば騒ぐほど風評被害は広がる。福島県外の人々が騒がずに福島の水産物を食べて『おいしい』ということが対策になる」
《元年9月の記者会見で、処理水について「(海洋)放出して希釈するほかに選択肢はない」と述べた。政府が処分方法を検討している段階での発言だった。全国漁業協同組合連合会(全漁連)や韓国は反発した》
──発言の意図は
「科学的に海洋放出は問題ないが、風評被害は起こる可能性が高く、政府を挙げて対応する必要を訴えたかった。前年(平成30年)の秋、福島第1原発を視察し、敷地内に並ぶ約900基の保管タンクを見た。数年後には満杯になるというが、処理水の扱いを検討する経済産業省の小委員会の議論は堂々巡りしている印象だった。大気汚染も水質汚濁も希釈すれば問題はない。誰かが言わねばならなかった」
「俺は言う」と全漁連会長に伝えた
──唐突な発言だった 「会見の数日前、菅義偉官房長官(当時)には根回しのつもりで『海洋放出しかない。菅長官くらいの大物が発言しないと、問題は収まらない』と話をした。菅さんは『俺は立場があるから(言えない)』と言っていたが、首相として令和3年4月に海洋放出の方針を決めてくれた」
「全漁連の岸宏会長(当時)に対しても、会見の前に出張で同席した際、『海洋放出しかない。あなたは同意しないと思うが、俺は(会見で)言う』と伝えた。岸さんは立場があるから『うん』とはいわず、会見後、環境相室に抗議文を持ってこられた」
《韓国政府は処理水の海洋放出について「科学的、技術的問題はないと判断した」と表明し、日本の立場に理解を示す。中国政府は日本に計画撤回を求め、水産物の輸入規制など対日措置を強化する構えだ》
中国の批判「許せない」
──韓国の対応について 「韓国内で『(処理水は)怖い』と考える人は多い。当時の会見直後、私も韓国で批判のやり玉にあがった。それでも、尹氏は科学的な見地に基づき、処理水の放出方針に理解を示してくれている。国際原子力機関(IAEA)も国際基準に合致すると正当な評価をくだした。海洋放出を進めるにあたって、尹氏やIAEAの存在は極めて大きかった。感謝したい」
──中国が反発を強めている
「外交上、ためにする批判であり、許せない。中国が処理水問題を大々的に批判したのは今年3月、中露首脳会談後に『深刻な懸念』を表明した共同声明からではないか。ただ、中国の主張は国際社会で共感を得られていない。非科学的な主張を唱え続ければ、共産主義国と民主主義国という体制の違いに加え、非科学的な国と科学的な国という新たな枠組みができてしまうのではないか」(聞き手 奥原慎平)