東京電力は24日、福島第1原発の処理水の海洋放出を始めた。放出完了まで30~40年かかる見通しだ。タンクにたまり続ける処理水は廃炉作業の足かせになっており、処分が始まったことで、原発事故から12年以上続く廃炉作業は転換点を迎えた。
東電はこの日までに処理水1トンを1200トンの海水で薄めて分析し、トリチウム濃度が、福島第1原発の放出基準である国の基準値の40分の1を、大幅に下回っていることを確認した。天候や海の状態にも問題はなく、運転員が海水ポンプを起動し、処理水の放出設備を稼働させた。薄めた処理水は、海底トンネルを通って沖合1キロに放出される。
東電によると、2023年度は4回に分けて約3万1200トンの処理水を放出する。「まず少量を慎重に放出する」として、トリチウムの量は福島第1原発の年間放出量(22兆ベクレル)の4分の1以下の計5兆ベクレルにとどめた。1回目は17日間かけて7800トンを放出する。
東電は1カ月間、放出口近くでモニタリングを毎日実施。その後も東電や環境省などが周辺海域などで監視を続ける。設備やモニタリングに異常があれば、緊急遮断弁が作動して自動で放出が止まる。震度5弱以上の地震や津波警報などが出た場合は、運転員が放出を止める。
福島第1原発の敷地内には、1043基あるタンク容量の98%にあたる134万トンの処理水がたまっている。処理水の元になる汚染水は日々発生しており、海洋放出しなければ、来年2~6月ごろに満杯になる見通しだった。23年度はタンク30基分ほどを放出するのに対し、空になるのは10基程度にとどまる見込みだ。東電は今後、放出に伴って空くスペースを溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出しなどに活用する。
政府は経済産業省の有識者会議などで、6年以上かけて処理水の処分方法を検討。21年4月、2年後をめどに海洋放出する方針を決定した。海洋放出が「国際的な安全基準に合致する」とした今年7月の国際原子力機関(IAEA)の包括報告書などを踏まえ、8月22日の関係閣僚会議で、24日に放出を始めることを決めた。
一方、政府と東電は15年に「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分も行わない」と地元漁業者らに約束した。政府は関係者の一定の理解を得たとして海洋放出に踏み切ったが、漁業者らは一貫して反対しており「見切り発車」との批判は避けられない。【土谷純一、高橋由衣】