出雲大社(島根県出雲市大社町杵築東)の近くを流れる堀川で、大量の小型船が不法に係留された状態が長年続き、問題になってきた。今年3月には200隻超を収容できる駐艇場が完成したが、懸案の解決にはつながっていない。台風などの災害時に、こうした船で被害が拡大することが懸念され、近隣住民は不安を訴える。河川管理者の県は違反者に罰金を科すなど対策を強化する考えだ。【松原隼斗】
来年4月 県、景観悪化や水害懸念
8月下旬の平日、日本海に注ぐ堀川の河口近くの両岸には小型船がずらりと並んでいた。ほとんどが釣りなどのレジャーに使われるプレジャーボートだ。船は川沿いの転落防止柵にロープで係留され、自前で作ったと思われる桟橋もあちこちで見かける。
これらの船舶は、河川管理者の許可を得ずに係留されており、「不法係留船」と呼ばれている。県などによると、不法係留は約50年前から始まり、ピーク時の2011年12月には229隻が係留されていたという。騒音や景観に関する苦情の声も地元から上がり続けており、県の出雲県土整備事務所は利用者に撤去を呼びかけてきた。今年6月1日時点で145隻まで減少したが、根本的な解決にはほど遠い。
観光客が多く訪れる出雲大社に近く、見栄えが良くないほか、津波や台風などの災害時に、流された船で橋が破壊されるなどの被害が出る可能性もある。近くに住む60代の男性は「大雨や津波のことを考えると、この状態は良くない。ロープをつないだ柵もさびていて壊れたりするのが心配」と不安を漏らす。
河川管理者の県が問題を放置してきたわけではない。12年に県や出雲市などで組織する「堀川プレジャーボート対策協議会」を発足。同年に、観光客が多いエリア800メートルの両岸について、重点的に撤去命令を発出する重点係留禁止区域に指定した。不法係留船の数に対して周辺の駐艇場に空きスペースが足りない課題があったが、今年3月に堀川沿いの陸上に200隻超を収容できる駐艇場が市内の民間企業によってオープン。これを受け、重点係留禁止区域を河口から2150メートル上流までの両岸に拡大した。
来年4月からは、さらに一歩踏み込んだ対策を講じる。現在の重点係留禁止区域を船舶放置禁止区域に指定。違反した場合、3カ月以下の懲役または20万円以下の罰金が科される。
船の所有者たちの思いは複雑だ。ある男性は「川から一旦、(陸上の)駐艇場に上げる必要がある駐艇場は、所有者には利用価値が低い」と話す。別の男性は「不法係留を続ける気はない。県と協議する場があれば、どこかに落としどころがあると思う」と訴える。
出雲県土整備事務所管理第2課の高宮幸生課長は「新たに保管施設もできたので適切な場所で保管してもらうようにお願いしていく。罰則規定は来年からだが、再三の要請に応じてもらえない人には罰則適用もやむを得ない」と強調する。