10歳の少年が姉と共謀して、万引きを働くケースも……。近年、「マイバッグ」や「セルフレジ」の普及によって、増えつつある「万引き」のリアルをお届け。
万引きGメン歴24年のキャリアを持ち、これまで6000人以上の万引き犯と対峙した伊東ゆう氏に聞いた。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
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「小泉進次郎は本当にふざけてますよ」
――最近の万引き犯に、なにか特徴はありますか?
伊東ゆう(以下、伊東) 「レジ袋有料化」と「マイバッグ」が万引きのスタイルを大きく変えました。購入した商品と万引きしたものを混ぜたり、お弁当をレジに通さず、そのまま電子レンジに持っていったり……。
このように万引き犯が「言い逃れしやすい」のが昨今の状況です。レジ袋有料化を進めた小泉進次郎は本当にふざけてますよ。
――環境の変化といえば、最近は「セルフレジ」の普及も進んでいます。
伊東 セルフレジも万引き犯にとっては歓迎すべきツールです。複数の商品をレジに運んでも、実際にスキャンするのは1個だけ。未精算の商品はわざと落として、拾い上げつつ、そのままバッグへ……。万引きを指摘したとしても、「うっかりしてた」と相手は言い逃れできてしまう。あとは自分で買ってきた半額シールを勝手に貼り付けたり、自作の値札まで持ってくるヤツもいますよ。
――店側からしたら、人件費削減のためにセルフレジを導入しているのに。
伊東 セルフレジ2~3台を導入すれば、従業員1人分の人件費を浮かせると言われています。ただし便利なものを導入した結果、不正がまん延するというパラドックスが発生している。最近は無人販売の店も増えてきましたが、正直危険だと思いますよ。盗まれるに決まってますから。
――万引きがしやすい環境にあるんですね。
伊東 あとフリマサイトの普及も大きいです。今は個人がなんでも自由に売れてしまうじゃないですか。昔でいえば、“バッタ屋”――正規ルート以外で仕入れたものを安売りするような商売は闇の仕事でしたが、最近は個人の万引き犯がそれをやるケースも増えました。
「万引きに年齢は関係ない」
――フリマサイトに出品するために万引きを。
伊東 換金目的で特に被害に遭うのは、女性向けの化粧品や、若者に人気なトレーディングカードですね。どれも大きさのわりに高額ですから。お菓子のおまけを積極的に盗む人間もいます。
あとそれが商売になっている連中もいて、それが海外から来た窃盗団です。総額10万円以上する医薬品が一気に盗まれたこともありました。
――万引きといえば、どちらかといえば「衝動的に行うもの」という印象がありました。
伊東 多くの犯人は効率を気にしてますね。どうせ盗むなら高く売れるものと、わざわざ高額商品の入ったウィンドケースの鍵まで開ける輩もいます。
――万引き犯が多い世代はあるのでしょうか?
伊東 年齢はとくに関係ありませんが、若い世代が「昔より罪悪感を抱かない」印象にあります。捕まっても悪びれない子も多いし、女の子だと足や胸なんかを強調しながら「許してほしい」という態度を見せる子もいる。昔ほど万引きを犯罪とは思っていないのではないでしょうか。
「リアル万引き家族」も…
――万引きの現場で、最近ほかに変化を感じましたか?
伊東 以前から指摘されている「高齢者の増加」は間違いありません。再犯率が高く、開き直るケースが多いのが特徴です。いざ捕まえると、いきなり耳が聴こえないふりをしたり、意識を失ったふりをすることもあります。念のため病院に連れていっても、特に異常がないケースがほとんどですけどね。
あとは兄弟や姉妹、家族ぐるみのケースも目立ちます。たとえば去年捕まえたなかで特に被害額が大きかったのは、とある地方の三姉妹の犯行でした。“レシートの長さ3枚分”にもなるほど大量の商品を万引きしていて、のちに警察が調べたところによると、案の定フリマサイトで売るためでしたね。
ほかにも20代の女性と10歳の弟が協力して、万引きをしたり……。盗んだものはカー用品や洋服など、すべて換金目的でした。姉は執行猶予中で、反省の色が全く見えない。弟は弟のほうで「俺、今日児相(児童相談所)行き?」と言いましたからね。もう万引きが日常化してしまっているんです。そういう姿を見ると、こちらも胸が痛みます。
――今後、万引きは増えるのでしょうか?
伊東 景気が悪くなって、誰もが明日が見えない状況です。そうなると万引きが増えるのは確実です。あと最近は「事後強盗」も増えつつあります。最初は万引きのつもりでも、捕まらないために暴行を行い、後から強盗扱いになってしまうケースです。これは省人化が進むコンビニで増えている印象ですね。( 続き を読む)
〈 「犯人を見つけても、通報しないほうが得な場合もある」ベテランGメンが語った「万引きの検挙件数が激減した」カラクリ 〉へ続く
(吉河 未布)