大阪府摂津市で新村(にいむら)桜利斗(おりと)ちゃん=当時(3)=が熱湯を浴びて死亡した事件で、傷害致死罪などで懲役10年が確定した母親の元交際相手、松原拓海(たくみ)受刑者(25)。産経新聞の接見に複数回応じ、虐待を繰り返した心境を「愛情と嫉妬が複雑に混じり合っていた」と明かした。事件の前に虐待情報を把握した市職員から指導を受けたものの「胸に響かず、重大性を全く認識していなかった」という。そんな受刑者が自ら語った「再発防止策」とは-。
下された判決を論評
「判決は証拠上、筋が通っている。自分も客観的には同じ判断をしたと思う。それでも、故意にシャワーをかけたとの認定は納得できない」
8月上旬、大阪拘置所で、受刑者は自身に下された判決をこう評した。
浴室で故意に熱湯をかけて死亡させたとする殺人罪で起訴されたが、6月の初公判で「熱湯を浴びせ続けた事実はない」と起訴内容を否認。弁護側はシャワーを60~75度にしたことは認めつつ、「浴室をサウナ状態にするおしおき」が目的で、目を離した間に偶然湯がかかったと主張した。
7月14日の大阪地裁判決は、受刑者が故意にシャワーを浴びせたと認定したものの、殺意までは認めず、傷害致死罪を適用して懲役10年(求刑懲役18年)を選択。検察側は控訴を断念したが、受刑者は自ら控訴した。
判決を受け、ニュースサイトでは「これで殺人にならないのか」などと批判的なコメントが多く投稿された。これについて受刑者は「そう思うのは当然かな」と話し、接見時の表情などから重く捉えている様子は感じられなかった。
「桜利斗ちゃんは帰ってこない。刑が重いとか軽いとかどちらともいえない」。量刑ではなく、事実誤認を理由とする控訴だと力説した受刑者。ところが、8月24日に一転して控訴を取り下げ、判決が確定した。
取り下げた理由について受刑者は「裁判が長期化すれば遺族に負担をかける。納得できない部分はあるが、遺族の気持ちを考えた」と話した。
疎外感や嫉妬
裁判では虐待が短期間に繰り返された経緯が明かされた。令和2年秋に母親と交際を始め、翌年5月ごろから母親宅で同棲(どうせい)。すぐに顔をたたくなどの虐待が始まり、桜利斗ちゃんが死亡したのは同年8月末だ。
殺人罪とともに、桜利斗ちゃんの頭をクッションで3回殴ったとする暴行罪にも問われ、この罪に争いはなかった。
法廷では、暴行の様子を撮影した動画が再生された。「おいで」という母親の声の後に「バコン」と衝撃音が響く。桜利斗ちゃんが泣き出す一方で、受刑者の笑い声が上がっていた。
公判では動機を「面白い動画を撮りたかった」と供述。改めて経緯を尋ねられると「クッションを投げ合う『戦いごっこ』がエスカレートした」とした上で、「逮捕後に虐待だと認識した。改めて動画を見るとひどいと思った」と語った。
保育士を目指したこともあるという受刑者。桜利斗ちゃんへの愛情はあったとしつつ、「母親と桜利斗ちゃんの絆が強固で、彼氏という立場ではかなわない」との疎外感や嫉妬が暴力につながったと説明した。
響かなかった行政の対応
事件を巡っては、虐待を強く疑わせる複数の情報を事前に把握していながら、事件を防げなかった摂津市などの対応が問題視された。
市職員は同棲直後に母親宅に家庭訪問。母親と受刑者に指導したが、歯止めにならなかったようだ。
受刑者は「たたいたのは自分なのに、職員は母親の方ばかり向いてしゃべっているようだった。胸に響かなかった」と当時を振り返った。
虐待を防ぐ方策として「重大性を認識させることが大事。変な話、桜利斗ちゃんが亡くなって初めて(自身が)やってきたことが全てダメだと思えた」とも述べた。
接見の中で謝罪や反省の言葉も口にした受刑者。謝罪や賠償を重ねていくとしている。(小川原咲)