ドスン、ガタガタ…「山が来た」 関東大震災の「山津波」わずか5分で集落へ 奇跡的避難に思いはせ

「山が来た」。関東大震災が発生した1923(大正12)年9月1日正午過ぎ。当時10歳だった故・内田一正さんは、片浦村(現・神奈川県小田原市)の河口近くで叫び声を聞いた。根府川駅に近い白糸川沿いの集落に押し寄せた山津波(土石流)。住まいはのまれたものの、一家6人はかろうじて難を逃れた。
2学期の始業式を終え、友人宅で遊んでいる最中だった。「ドスン」というものすごい地響き、「ガタガタ」という上下動。はいずりながら座敷に出て、揺れが収まると大急ぎで自宅へ戻った。
家族がそろった時、最初の地震の時と同じような地響きがして、再び激しい揺れに襲われた。「山が来た」との叫びを聞いたのは、その直後だった。近くの桑畑へ必死に逃げ、振り返ると、1分もたたないうちに自宅や集落の家々が「赤土の中に消えてしまった」。
一命を取り留めた一正さん一家は、他の住民が避難していた場所に合流。「ここが最後の場所だ。死ぬ時は一緒だ」と励まされ、覚悟を決めたという。
長男の昭光さん(81)がまとめた一正さんの記録「人生八十年の歩み」には、関東大震災の発生直後に襲ってきた山津波の状況が克明につづられており、犠牲になった人々の名も記されている。読み込んだ昭光さんは、当時の奇跡的な避難行動に思いをはせる。「わずか5分で4キロ。土石流は本当にものすごいスピードで押し寄せてきた」

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