特定危険指定暴力団、工藤会をめぐる裁判です。一般市民を標的とした襲撃事件で殺人の罪などに問われている、工藤会トップとナンバー2の控訴審が13日始まりました。トップの野村被告が1審同様、すべての関与を否定したのに対し、ナンバー2の田上被告は一転「一部の事件を指示した」と関与を認めました。
■樋口淳哉記者
「午前9時半前です。2人が乗ったとみられる車が福岡高裁に入ってきました。物々しい雰囲気に包まれています。」
警察車両に警備されながら、特定危険指定暴力団、工藤会のトップ、野村悟被告(76)とナンバー2の田上不美夫被告(67)が乗った車は福岡高裁に入りました。
2人は、1998年の元漁協組合長の射殺事件や、2012年の福岡県警の元警部銃撃事件など、市民を標的とした4つの襲撃事件で、殺人や組織犯罪処罰法違反などの罪に問われています。
2人の指示を明確に裏付ける証拠がない中、1審の福岡地裁は間接的な証拠の検討を重ね、組織的な犯行と認定しました。野村被告に死刑、田上被告に無期懲役の判決を言い渡し、2人は控訴していました。
注目が集まる控訴審では、厳しい警備態勢が敷かれました。
■樋口記者
「普段、法廷に持ち込めるスマホの持ち込みが禁止され、厳重な警戒態勢がとられ、裁判が行われます。」
法廷に入る際には警察官の立ち会いの下、持ち物検査が行われ、ペンと紙以外の持ち込みが禁止されました。
午前10時に開廷し、白いシャツに黒いスーツを身にまとった2人はそれぞれ、裁判長に頭を下げ入廷しました。野村被告は白髪が目立ち、最初に書記官から、補聴器が聴こえるかどうかの確認を受けました。
■裁判長
「不規則発言をした場合は即時、退廷を命じることがあります。」
1審判決後に、野村被告が裁判長に「公正な判断をお願いします」などと発言したためか、被告人と傍聴人に対しての不適切な発言を禁止する、異例の呼びかけが行われ、審理が始まりました。
1審では2人は一貫してすべての事件への関与を否定しました。弁護側は、トップの野村被告については、1審同様、4つの事件すべてで無罪を主張しました。
しかし、ナンバー2の田上被告については、看護師と歯科医師がそれぞれ襲われた2つの事件について、独断で指示したことを認めると、これまでと主張を一転させました。殺意はなかったとしました。
一方、検察側は田上被告の新供述について「信用できない」と反論しました。一部の事件への関与を認めたことについては、次のように指摘しました。
■検察側
「野村被告の刑事責任を免れさせようとする動機がある。」
野村被告は、検察側の主張を時折、首をかしげながら聞いていました。
このあと裁判は、1998年の元漁協組合長事件の実行犯として無期懲役の判決が確定している、元・工藤会系組長が弁護側の証人として出廷しました。事件は組織的なものではなく、個人的な利害と恨みによるものなどと述べ、13日の審理を終えました。
次回の公判は27日です。
1審で工藤会トップの野村被告に死刑判決が下されたあと、弁護団は全員解任され、今回の控訴審では新たな弁護団が2人の弁護を担当しています。
お伝えしましたように、ナンバー2の田上被告が一部の事件への関与を認めるなど、控訴審では大きな主張の変更がありました。裁判の内容を整理します。
野村被告と田上被告は、市民が襲撃された①元漁協組合長射殺事件②元警察官銃撃事件③看護師刺傷事件④歯科医師刺傷事件の4つの事件で、殺人や組織犯罪処罰法違反などの罪に問われています。
1審では、2人ともすべての事件について関与を否認しましたが、福岡地裁は野村被告を『首謀者』と認定して死刑判決、田上被告を『指示者』と認定して無期懲役の判決を、それぞれに言い渡しました。
今回の控訴審では、野村被告は1審と変わらず4事件すべてで関与を否認しました。一方、田上被告は看護師刺傷事件と歯科医師刺傷事件で、みずからの指示があったと主張を変えました。
この方針変更について、福岡県警の暴力団捜査幹部は「ナンバー2の田上被告が2事件の指示を認めることで、野村被告の罪を軽くし、組トップの死刑回避を狙っているのでは」と話しています。