陸上自衛隊の装備品で耐用年数(14年)を過ぎた高機動車が、海外に流出したことが読売新聞の調べでわかった。車体を破壊する前提で国内業者に売り払われながら、簡易に解体した状態で輸出され、現地で組み立てて再使用されていた。タイで記者が現物を確認した。高機動車の海外流出については防衛装備庁も情報を把握しており、調査に乗り出す方針。
高機動車を入札で売り払う際、自衛隊に偽装したり、駐屯地に侵入したりするなど悪用されるのを防ぐため、陸上幕僚監部は通達で、復元できないよう破壊、切断させることを求めている。
現行の入札規定に従うと、高機動車は細かく分解後、鉄くずにしてリサイクルに回される。車としてはもちろん、外観から自衛隊車両と分かるボディーなどの転売も禁じる。契約に違反した場合、陸自は落札した解体業者らに賠償を請求できる。
ただ、複数の業者は取材に、規定に背き、タイヤやボディーの一部を外すなどしただけで高機動車を輸出してきたことを認めた。海外で再び組み立て、現地で新たに車両登録するという。
読売新聞は7月下旬にタイ北部で、再び組み立てられた高機動車を確認した。全体の形状をはじめ、ヘリコプターで空輸するためのボンネット上のフックや、暗闇で敵に気づかれず走るための「管制灯火」の取り付け位置など、高機動車固有の特徴があった。車内には日本語表記の説明文が貼られたままだった。
所有者は、日本の関東地方で解体部品販売業を営むタイ人男性。タイでの取材に「2018年頃、高機動車を落札した日本人業者から2両を買った」と話した。解体した高機動車をコンテナに入れて横浜港からタイへ輸出したという。
高機動車を巡っては、今年3月の国会で野党議員が「『ロシア軍が使用している』との写真がインターネットにあった」などと質問。防衛装備庁の土本英樹長官(当時)は「画像だけでは自衛隊が売り払った車両か判断できない」と答弁する一方、同庁は4月、落札などに関わった約40業者の調査を始めた。
同庁は、実態の把握には海外の調査が必要と判断。24年度予算の概算要求に関連経費約3億円を盛り込み、事前に得た情報から、東南アジアを念頭に調査する方針を固めている。
◆高機動車=陸自が1993年度から運用する車両。悪路の走破性能が高く、人員輸送や 牽引 に用いる。トヨタ自動車が納入し、今年6月現在で約2500両を保有。耐用年数の14年を基準に運用を終えて、同月までに約1800両が売り払われた。