岸田政権の内閣改造で、副大臣・政務官計54人が全員男性だったことに「女性活躍への逆行だ」などと批判が相次いでいる。朝日新聞の論説兼編集委員の高橋純子氏は民放番組で「おぞましい」と述べた。一方、高橋氏の発言にも「男性差別だ」などと反発する声がインターネット上で多数出ている。なぜ、このような事態になるのか。【金志尚】
高橋氏は17日放送のTBS系報道番組「サンデーモーニング」に出演。副大臣・政務官への女性起用がゼロだったことについて、「54人全員スーツでネクタイの男性だけが並んでるって、非常におぞましいですね」と発言した。
さらに、男性だけが並んだ副大臣と政務官の映像について「あれを世界に流されるっていうことが、日本という国がどれだけ遅れた国なのかということを世界にアピールしてしまったと。非常に責任は大きいと私は思います」と述べ、岸田文雄首相を厳しく批判した。
これに対し、自民党の和田政宗参院議員は自身のX(ツイッター)に「女性が立候補しやすい環境づくりが重要であり、“おぞましい”は本質を見ない差別発言でしかない。極めて恣意(しい)的な発言だ」と投稿。1万7000以上の「いいね」がついた。
他にも「なぜスーツでネクタイ姿の男が並んでいる事が『おぞましい』のか。公共の電波を使ってこんな“差別発言”をしても問題にならないのか。逆ならどうなる? 男は我慢しろって?」などと発言を問題視する書き込みが並んだ。
「女性たたきのハードル、低くなった」
ジェンダー問題に詳しい作家の北原みのりさんに話を聞いた。高橋氏とは同世代という。
「『またか』という思いと、『この程度で?』という驚き。まず感じたのは、この二つです」。今回の事態について、北原さんはまずこう切り出した。
ジェンダー平等を女性が訴えると、それに対するバックラッシュ(反発)がこれまでも起きてきた。今回も同様の構図という意味で「またか」だという。
「でも、これぐらいの発言でも攻撃されるのかと。女性たたきのハードルが低くなっているように思えてならず、非常に恐ろしいと感じます」
「男性差別だ」という主張の裏には、男女間の格差解消やジェンダー平等を求める声を「自分への攻撃」と受け取る男性の存在がある、と指摘する。今回の批判コメントの中には、「女性ばかりになった時には『おぞましい』と言わないはずだ」というものもあった。
だがこうした仮定は「ファンタジーだ」と北原さん。「今、そういうことが起きてないし、起きうる状況でもない。そうした仮定を立てることに全く意味がありません」
「娯楽のように捉える風潮」
高橋氏に対しては、「思い上がりすぎ」「どれだけ自分を偉いと思ってるか知らないけど、偉くも無いのに偉そうに言うやつ大っ嫌い」などとコメンテーターとしての資質を問う批判もあった。
北原さんは「おぞましい」という言葉の選択について、「強い言葉だというのは、言葉尻だけを捉えれば、そうかもしれない」と話す。だが、あくまで男性ばかりが起用されている「状況」を指してのことであり、そうである以上、まっとうな批評だと指摘。そしてそれは文脈を踏まえれば明らかだという。
にもかかわらず、ネガティブなコメントが相次いだ背景には「女性たたき」をある種の娯楽のように捉える風潮があるのではないか、とみる。
例えば、と挙げたのが、高橋氏のコメントを報じたメディアの報じ方だ。あるスポーツ新聞は「嘲笑」という見出しをつけ、記事を配信していた。
「映像を見れば分かることですが、高橋さんはあの時、政府の姿勢にあきれ、悲しみ、怒っていました。しかし、それを『嘲笑』と言い換えることで、『大企業である程度の地位を得た女が意見を言うことへの嫌悪』みたいな空気をメディアも作っていないでしょうか」
また高橋氏が朝日新聞に所属していることも、攻撃的なコメントが多発した要因になっているという。北原さんいわく「『女性でリベラル』というのが一番たたきやすい構造になっている」からだ。
「仮に『おぞましい』と発言したのが男性だったり、あるいは保守的なメディアの人であったりすれば、ここまで攻撃的なコメントが増えることはなかったと思います」
「変わるべきは意識」
政務官・副大臣への女性起用がゼロだった一方、今回の内閣改造では過去最多となる5人の女性閣僚が誕生した。だが岸田首相が「ぜひ女性ならではの感性や共感力を十分発揮していただきながら、仕事をしていただくことを期待したい」と述べると、「時代遅れ」「ステレオタイプな考え方を助長する」などと批判が殺到した。
北原さんによると、ジェンダー平等に向け、制度面の整備は近年進んできた。だが、こうした首相の発言や今回の事態から浮かび上がるのは、人々の意識がまだ追いついていないという現実だという。
「変えなくてはならないのは制度だけではなく、それを運用する人たちの意識もです。ですが意識の方は、やっぱり時間がかかるのだということを改めて突きつけられた思いです」
毎日新聞は、朝日新聞社を通じて高橋氏に取材を申し込んだが、同社広報部は「番組内での発言については従来、取材を受けていない」と答えた。