「日本の家族と、(亡き父の)お墓参りに一緒に行くようなつながりができたらうれしい」
秋篠宮ご夫妻が21日に面会された元残留日本兵の娘、グエン・ティ・フオンさん(74)は、秋篠宮さまの手を両手で固く握り返しながら、そう語った。
先の大戦後、ベトナムに残った元日本兵は、フランスからの独立を目指してインドシナ戦争に突入したベトミン(ベトナム独立同盟)に勧誘されるなどし、600人ほどが軍事訓練や戦闘指導に従事したとされる。「新たなベトナム人」と呼ばれて現地名を名乗り、新たに家庭を持った人もいたが、ベトミンがソ連・中国との接近を深めると一転、厄介者扱いされるように。ベトナム政府は元日本兵を召集して帰国するよう求め、一部は家族の帯同を認められないまま日本に引き揚げざるを得なかった。
フオンさんの父、清水義春さん(平成23年死去)もその一人だった。ベトナムで元残留日本兵の家族を支援してきた小松みゆきさん(76)は12年ごろ、清水さんの帰りを待つフオンさんの母、スアンさんと出会った。清水さんは昭和29年に「長い出張になる」と言い残し、スアンさんと3人の子供を置いて日本に帰国。スアンさんは孫に笑われながらも、清水さんが残した服を枕に着せ、「アイン、オーイ(ねえ、あなた)」と呼びかけ続けていたという。
「戦争のせいで、自分の意志で動けなかった人たちがいた。この歴史を消したくない」と小松さん。活動を通じて、元残留日本兵の家族の現状が報じられたことをきっかけに、平成18年に清水さんの訪越が実現した。
フオンさんにとって、6歳で生き別れた父との再会は「夢でも考えられなかった」。対面すると涙で言葉が出てこず、清水さんからは「フオンちゃん、子供の時と同じように涙もろいね」と声をかけられたという。
上皇ご夫妻が平成29年2~3月にベトナムを訪問された際には、スアンさんら元残留日本兵の家族16人との面会の場が設けられた。スアンさんが「私がいなくなっても、この友好が続きますように」と口にすると、上皇后さまはスアンさんを優しく抱きしめられた。
この面会は日本で大きな話題を呼び、スアンさん一家に支援の申し出の声が上がった。「日本は父の国だから、永遠のあこがれ。一度でいいから行ってみたい」。フオンさんの思いは同年10月に実現する。来日したフオンさんは、日本の清水さんの親族から清水さんの遺骨の分骨を受け取った。母のスアンさんはこの遺骨で清水さんの供養を執り行った後、30年1月に帰らぬ人となった。
秋篠宮ご夫妻はこの日、母の願いを引き継いだフオンさんと固い握手を交わされた。フオンさんは涙をぬぐいながら「義理の母や兄弟に会いに行きたい。父の国に、もう一度行きたいんです」と訴えつつ、今後は日本とベトナムの家族との交流で「孫世代が貢献してくれることを願っている」と話した。(ハノイ 村嶋和樹)