京アニ公判 「では青葉さんも罪になるんですね」被告を沈黙させた裁判員の疑問

36人が死亡し32人が重軽傷を負った令和元年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第10回公判が、27日午前10時半から京都地裁で開かれる。この日から証人尋問が行われ、事件発生当時、現場で一部始終を見た目撃者が出廷し、当時の状況について証言する見通しだ。これまでの公判では計7回の被告人質問があり、25日の公判では裁判官や裁判員らが被告に直接質問した。持論を繰り返す被告に、ある裁判員が投げかけた。「青葉さんも罪になるんですね」。法廷は沈黙に包まれた。
「記憶にない」連発
25日公判では冒頭、これまでの検察側の質問を踏まえた弁護側からの再質問があった。
京都を訪れる前日、被告は隣人と騒音トラブルを起こし、その際に「失うものは何もない」と発言している。ただこの日、改めて弁護人に真意を問われた被告は「その記憶はなかった」と主張。さらに「記憶でなく(捜査の)記録に残っているものなのでそう答えた」と説明した。
事件当日、第1スタジオに包丁を持って入ったことやスタジオ内で「死ね」と叫んだことについても「記憶にない」と繰り返した。
当時の記憶について答えることに難色を見せた被告。検察側から「京都に来てからの気持ちや(事件の)意図については当時を思い出したものか」と問われると、小声で「そういうふうになります」と答え、犯行当時の心境については「やけくそという気持ちだった」と話した。
「はなから相談考えず」
午後からは裁判官や裁判員らによる質問が始まった。
自身にとって「10年かけた渾身(こんしん)の力作」(検察側)だった作品は「京アニ大賞」に応募するも落選。この日も自身の作品が会社ぐるみで盗用されたとこれまでの主張を繰り返した。
弁護士への相談など合法的な手続きを通して抗議する方法について考えなかったのかと裁判官に問われたものの、「これまで誰かに何か言って解決したことはない」「はなから相談などは考えていなかった」(被告)。
また京アニにとって自分はどのような存在だと思うかと問われた際には「金になる人」と述べるなど、自分の小説家としての能力に自信を示す場面もあった。
「やってやった」感情乏しく
36人死亡という平成以降最悪の惨事を起こした被告は、これまでの公判で平成13年に青森県弘前市の消費者金融で起きた強盗放火殺人事件を参考にしたと明かしている。同事件ではガソリンがまかれて同社社員5人が焼死、4人が重傷を負ったが、京アニ放火殺人事件ついては「(亡くなるのは)8人ぐらいではないか」と考えていたと説明した。
質問の趣旨は犯行動機へと移る。検察側は「筋違いの恨みによる復讐(ふくしゅう)」と指摘しているが、「京アニに作品を盗まれたことへの恨みはまだありますか」(裁判官)。問いに対し被告はこう述べた。「『やってやった』という感情がもう少し生まれると思ったが、悩むこともある」
20日の公判で涙ながらに被告に質問した遺族らの印象を尋ねる場面もあった。「人がいなくなる、この世から存在が消えてなくなるというのはやはり、そういうことなんだな」。被告は淡々と答えた。
沈黙の被告
犠牲者の中には、アニメの制作に携わっていない人もいた。20日の公判では、入社1年目の娘を失った母親が、被告が盗作されたと主張する作品の制作後に娘は入社したと、被害者参加制度を利用して訴えている。
そうした過程を踏まえ、「知らないことは罪」と京アニ全体に責任があるとの主張を繰り返してきた被告に、ある裁判員の男性が問いかけた。「京アニの従業員の中にはいろいろな業種がある。そのことを青葉さんは知ろうとしなかったのですか」。首をひねり、言葉に詰まった被告。「うぅ、うぅ」。法廷は30秒ほど沈黙に包まれた。裁判員が続ける。「では青葉さんも罪になるんですね」。被告は「至らない部分があり、努力が必要でした」と言葉を絞り出した。

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