「2025年大阪・関西万博」をめぐり、建設費の大幅増やパビリオン建設の遅れとは別の深刻な懸念がくすぶっている。会場の夢洲(ゆめしま)は、ごみや浚渫土砂による人工島。埋め立て途上でできた湿地などにシギ、チドリなど渡り鳥の大群が飛来してきた。大阪市はここを万博終了後に埋め立て、売却する方針で、固化・地盤改良工事を進めている。
【写真】埋め立て工事中の夢洲の万博会場予定地で撮影された、幻想的なハマシギの群れ
一方、環境団体は湿地を残したり創出したりするよう求めてきた。その方法について「2025年日本国際博覧会協会(万博協会)」は9月28日、環境団体との間で具体的な検討に入った。万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。真逆の結果に至ることを関係者は恐れている。
夢洲は生き物の王国となっていた
万博開催に向けた会場整備が本格化しようとしている夢洲を、約1キロ南の対岸にある「南港野鳥園」(大阪市の施設、正式名称は野鳥園臨港緑地)の展望塔からカメラの望遠レンズを通して見た。赤と白の工事用クレーンが立ち、万博協会のホームページで目をひく大屋根(リング)の一部だろうか、作りかけの木製の建物が見える。
基本計画によると、会場の南側は「ウォーターワールド」と呼ばれるエリア(47ヘクタール)で、水上イベントなどが行われる。
このエリアと、その北側のパビリオンが並ぶエリア(65.7ヘクタール)は、大阪市が航路を確保するために浚渫した海底の土砂による埋め立てを行ってきた場所。最近まで湿地と砂礫地、雨水がたまった水たまりが広がり、渡り鳥をはじめ多様な生きものの生息地になっていた。
2014年、大阪府は「生物多様性ホットスポット(多様な生き物たちに会える場所)」を公表。夢洲と南港野鳥園は、Aランクの16カ所の一つに選ばれた。 その5年後の2019年から公益社団法人・大阪自然環境保全協会は、夢洲で生きもの調査を始めた。
調査グループの加賀まゆみさん(70)は最初に見た夢洲の光景をこう振り返る。「ペンペン草も生えないゴミの埋め立て地と聞いていたのに、カモの仲間のホシハジロが5000羽、猛禽類が上空をホバリングしていて、目を疑うような野生の王国でした」。
環境団体の監査請求は却下された
そこは今、どうなっているのか。大阪港湾局(大阪市の組織)は2019年から湿地の固化・地盤改良工事を進めてきた。セメント系の固化剤を入れた後、ペーパードレーンというプラスチックと紙でできている「吸い取り紙」のようなものをたくさん打ち込んで水を抜き、圧密させて固めて土を入れる作業中だ。