昨年の猛暑でエサ豊富→今年の記録的残暑で活発化
触れると強烈な臭いを放つカメムシが9月頃から各地の都市部で大発生し、住民を困惑させている。この夏は、餌となるヒノキやスギの実が豊富でよく成長したことに加え、例年以上の残暑で動きが活発になっていることが背景にあるようだ。カメムシの中には果物などを食い荒らす種類もおり、農作物への影響も懸念されている。(松田祐哉、佐々木栄)
JR大阪駅にほど近い大阪市北区の飲食店。電飾看板の周辺に緑色のカメムシが群がる。1週間ほど前からよく見かけるようになり、店内にもたびたび侵入。男性店員(40)は「調理場に飛んできたり、支払い用のトレーに止まったりして大迷惑。早くいなくなってほしい」と困り顔だ。
大阪や兵庫などでカメムシの駆除を手がける業者の男性(48)によると、9月中旬以降、マンションからの依頼が増え始めた。多い日は5軒ほど回り、一度駆除してもまた集まってくる場所もあるという。
各自治体によると、現在、近畿の都市部で大発生しているのはツヤアオカメムシ(体長約1・5センチ)。光沢のある緑色の体が特徴だ。夏に山中で成虫となり、餌場を行き来してひと冬を越す。夜行性で、夜間の気温が高いと活動性が高まる。今年は各地で真夏日の日数を更新する記録的な残暑が続いており、夜も気温が下がらず市街地まで飛んできているようだ。
今夏、好物のスギやヒノキに多くの実がつき、カメムシの生育環境が良かった点も大きい。スギやヒノキは前年夏の気温が高いと翌年に花が多く咲き、実が増える傾向にあるといい、昨年の暑さも影響しているとみられる。多くの成虫がさらに餌を求めて山から都市部へ移動した可能性が高い。
京都府病害虫防除所には9月中旬以降、「京都市中心部の街灯にカメムシが密集している」「なぜこんなに多いのか」などの問い合わせが相次いだ。担当者は「京都市内にこれほど多く飛んでくることは珍しい」と話す。
同病害虫防除所によると、府内各地の調査地点でも例年より数が多く、22日には農作物への注意を呼びかける緊急の通知を出した。
農林水産省によると、京都や和歌山など21道府県で注意報が出されており、7月以降はイネを好む種類、8月中旬以降は果樹を狙う種類が増えているという。
和歌山県内の果樹園では、収穫前のミカンや柿の実にカメムシがつき、果汁が吸われて変色したり落下したりする被害が出ている。県農作物病害虫防除所の担当者は「収穫のピークに向け、農薬の散布などを徹底してほしい」と警戒を呼びかける。
気温の低下とともにカメムシは活動が鈍るため、10月半ば以降は目にする頻度も減っていくとみられる。
ただカメムシは越冬後に卵を産み、翌年の夏には次の世代が成虫となる。病害虫に詳しい山口県農林総合技術センターの溝部信二・専門研究員は「今夏も猛暑だったため、来年もヒノキやスギの実が多くなるとみられる。越冬するカメムシも多いはずで、来年も大量発生する年になりそうだ」と指摘している。
窓にテープで侵入防止
都市部で大発生すると、マンションの通路やベランダに集まったカメムシが室内に入り込む恐れもある。
まずは侵入を防ぐことが大切だ。数ミリの隙間があれば入り込めるといい、窓の隙間をうめるテープなどで対策できる。カメムシを寄りつかせない市販の薬剤があり、網戸などに散布しておくことも有効だ。外に干した洗濯物にくっついている場合もあり、注意したい。
たたいたり、潰したりすると刺激臭を発するため、駆除には工夫が必要となる。市販の殺虫剤で撃退するほか、ペットボトルを半分ほどに切って捕獲する方法もある。
カメムシに詳しい兵庫県の伊丹市昆虫館の長島 聖大 学芸員は「分泌物に触ると水ぶくれができたり、臭いがとれなかったりする。直接触らずに、ティッシュなどで包んで外に逃がしてほしい」と助言する。
◆カメムシ=国内には1300種以上が生息。イネや果実、大豆などの汁を吸う種類は「病害虫」に位置づけられ、発生状況に応じて都道府県が警報や注意報を発表する。臭いの元は攻撃を受けた際に出す分泌物で、仲間に外敵の存在を伝える役割もあるとされる。