こども家庭庁の補助事業として公益社団法人「全国保育サービス協会」(東京)が発行するベビーシッター割引券の今年度の発行枚数が、2日に予算の上限に達し、新規発行が停止された。割引券の利用を申請する企業が急増していることなどが背景にあるとみられる。ベビーシッターを利用している子育て世代の間では、新たな割引を受けられないことへの不安が高まっている。(苅田円)
この事業は、多様な働き方をしている労働者のベビーシッターの利用を支援する目的で、内閣府が2016年度に始めたものだ。今年度からこども家庭庁の所管となり、同協会に委託している。割引券は、子ども・子育て支援法に基づき、事業者から徴収する拠出金を原資に発行。従業員がベビーシッターを利用した場合、子ども1人につき1日最大4400円を補助する。
同庁によると、20年にコロナ禍の一斉休校を受け、共働きの家庭などでベビーシッターの需要が急増し、利用が広がった。同協会によると、22年度は18年度の6倍以上となる約3900社が申請し、割引券約35万枚が使用された。年度途中で、拠出金をもとにした当初予算5億6100万円を使い切ったため、補正予算を組んで対応した経緯がある。
国は今年度、事業費として昨年度の発行枚数をまかなえる予算8億7000万円を計上。発行上限を39万枚として、上限に達すれば年度途中でも事業を終了することを、事前に企業側に告知していた。
同庁によると、1日午後に申し込みが39万枚に達し、2日午前、企業に対して一斉にメールで受け付け終了を連絡した。発行済みの割引券は来年3月まで利用できる。
今年度は昨年度に比べ申し込みのペースが早く、9月27日時点での利用申請企業はすでに過去最高の4131社に上っていた。コロナ禍が落ち着いた後もベビーシッターの利用が続いたことなどが背景にあるとみられる。
同庁の担当者は「年度当初に需要を見通すのは困難だった」と説明した。
加藤少子化相は3日の記者会見で、割引券39万枚のうち約19万枚がまだ利用されていないと説明した。今年度の途中に上限に達することを見越して、あらかじめ手元に一定量を確保した企業があるとみられる。加藤少子化相は「まずは(企業側に)未利用分を有効に活用いただく」などとして、対応策を検討していく姿勢を示した。
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ベビーシッターに頼っている人は困惑している。
保育園に通う娘2人を育てる川崎市の会社員女性(41)は週1回、夕方から3時間、利用している。子どもの世話をベビーシッターに任せることで体への負担を軽減でき、仕事のやりがいにもつながっているという。
割引がなくなれば、月に9000円ほど自己負担が増える見込みだ。今年度の新規発行停止について「まだ半年残っていて早すぎる。国も企業も一緒に解決策を考えてほしい」と話す。
ベビーシッター派遣を手がける育児支援会社「マザーネット」(大阪市)は「割引券の利用を見越して予約済みの人もいるはずで、金銭的な負担が子育ての負担になるケースも出てくると思う」と懸念を示した。