「沖縄の民意いつも踏みにじられる」元町長 国が辺野古代執行へ提訴

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設計画を巡る国と県の対立は5日、再び法廷闘争に入った。軟弱地盤改良のための設計変更を承認しない知事に対し、国土交通相は代執行に向けた訴訟を提起。沖縄では移設反対の民意を顧みない国の強硬姿勢に批判の声が上がる一方で、自民県議らは県敗訴の最高裁判決後も設計変更を承認しない知事を厳しく追及した。
「行政経験者として、最高裁判決には従わざるを得ないという認識はある。でも、沖縄の民意はいつも踏みにじられている。イエスともノーとも言わなかった知事の判断は正しい」。米軍基地を抱える沖縄県金武町の町長を務めた後、県政策調整監として翁長雄志前知事と玉城デニー知事を支えた吉田勝広さん(78)は、設計変更を承認しなかった玉城知事の決断に理解を示す。
国が自治体の権限を取り上げる形の「代執行」は非常手段と言える。辺野古移設を巡り、2015年に国が初めて起こした代執行訴訟で、裁判所は「沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべきだ」と国と県に対話を促し、和解を成立させた。しかし、その後、工事を急ぐ国は再び県を訴えた。
吉田さんは、政府が今回、県と対話せず、直ちに代執行訴訟に踏み切ったことを嘆く。「地方自治法で国と地方は対等とされている。政府は沖縄の歴史を踏まえ、知事が何で苦しんでいるのか、意見を聞いてから判断すべきではないか」
辺野古移設に反対する県内の市町村議で9月に発足した「自治体議員有志の会」のメンバーは5日、那覇市で記者会見し、玉城知事の決断を支持する声明を発表。「知事が圧力に屈することなく、承認の判断を行わなかったことは、県民のゆるぎない民意に基づくもので、沖縄の自治の底力を発揮した」とした。
会には30市町村の115議員(3日現在)が名を連ねる。その一人で、瑞慶覧長風(ずけらんちょうふう)南城市議は「日本全体の問題として考えなければならない。国民が自分ごととして捉えなければ、政府が沖縄でいくら基地建設を強行しても、沖縄の声は無視されてしまう」と訴えた。
沖縄の米軍基地の引き取り運動を続ける「本土に沖縄の米軍基地を引き取る福岡の会」の里村和歌子代表(48)=福岡市=は「これまで県民投票や知事選など、過去を振り返ればたくさん沖縄県民は意思表示をしてきた。県が『イエス』というまで、国は粛々と無慈悲になたをふるってくる」と代執行提訴を批判した。
基地引き取り運動は15年に大阪から始まり、現在は東京や兵庫、長崎など13都道府県に広がる。沖縄県が敗訴した9月の最高裁判決を受け、全国連絡会として「基地問題を解決するには、ヤマト(本土)に生きる私たち一人一人が、自らの責任と良心に基づいて判断しなくてはいけない」と緊急声明を出した。
里村さんは「代執行訴訟を起こしたのは国だが、それを支えているのは国民である私たち。沖縄に不平等を押しつけ、差別する側の人間でいることにあなたは耐えられるのかと問いたい」と話した。
自民県議が知事批判「法律を全否定」
一方、この日の県議会一般質問では、自民県議から知事の判断を批判する意見が相次いだ。島袋大(しまぶくろだい)県議は「行政のトップである知事が最高裁判決を受け入れないことは、我が国の法律を全否定することだ。影響は計り知れない。知事は行政の長としてではなく、政治家として自らの保身を最優先した」と声を張り上げた。
米軍普天間飛行場を抱える宜野湾市の松川正則市長は5日、那覇市での記者団の取材に「知事の苦悩は察するが、県のリーダーとして行政を預かっているのだから最高裁判決は受け入れるべきではないか」と知事の姿勢に疑問を呈した。1996年に日米両政府が普天間飛行場の返還に合意して27年。返還の早期実現を求めてきた松川市長は「改めて裁判が始まるということで、残念に思う。飛行場の危険性が放置され、市民に申し訳ない」と語った。【喜屋武真之介、比嘉洋、宗岡敬介】

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