「一晩で500万円が消えた」…SNSで横行するFX投資勧誘の落とし穴

「確実に資産を増やします」「絶対失敗しません」。交流サイト(SNS)で、こんなうたい文句につられて投資を始め、多額の資金を失うトラブルが後を絶たない。大半が自称「投資家」によるもので、投資情報をこまめにアップ。海外の業者を利用する外国為替証拠金取引(FX)への資産運用の誘いに乗り、一晩で投資金数百万円の損失を出したケースもある。専門家は「自称投資家の甘言に注意してほしい」と呼びかけている。
損失後、連絡取れず
《僕に投資しませんか。海外FXで1カ月で10%ずつ資産を増やします》
昨年3月、大阪府に住む会社役員の男性(38)はX(旧ツイッター)にこんな投稿があるのを見つけた。
投稿者は投資家の「REN(レン)」と名乗り、「FX初心者向け」と称して定期的に投資情報を発信。他のフォロワーの相談に丁寧に助言していた。
男性はやがてレンが発信する情報を参考に取引をするように。そんなとき、レンから海外FXを使った資産運用を勧められた。
「レンさんがいうなら…」。言われるがままインターネット上で金融取引ができる口座を開設し、250万円を入金した。資金の運用状況を確認できる専用サイトも教えられ数カ月間レンに運用を任せたところ、数十万円増え、すっかり信用した。友人も勧誘して、2人で500万円をつぎ込んだ。
ところが、数カ月後のある日、目の前が真っ暗になった。運用状況を確認すると資産残高がゼロとなっていた。記録を見ると、レンが夜間に行った取引で資金を一気に失っていたことが判明。男性はレンに説明を求めようとしたが、SNSのアカウントは全て削除されており連絡が取れなくなったという。
偽サイトに誘導か
投資詐欺の手口に詳しい荒井哲朗弁護士(東京弁護士会)は、SNS上でFXを使った資産運用をもちかける自称「投資家」は「投資詐欺の可能性が高い」と指摘する。
荒井氏によると、そもそも投資をするために男性が開設を指示された口座も投資金を奪うためで、暗証番号などがレンに筒抜けになっていたと考えられる。運用状況を確かめる専用サイトもでたらめの可能性があるという。
実際、男性がSNS上でレンについて調べると、同様の被害に遭った人が複数いることが分かった。男性は「詐欺に遭った」と警察にも相談したが、刑事事件化するのは難しいといわれ、断念した。
「警察に相談したとしても、外形的には資産運用に失敗しただけ。詐欺罪の構成要件である『だます意図』を立証するのは難しい」。荒井氏はこう指摘する。
情報開示請求などで自称投資家の身元を特定し、訴訟を通して被害金を取り戻すという手段もあるが、「時間と費用がかかる割に肝心なお金が返ってこないケースが多い」という。
金融庁がSNSパトロールも
専門知識が要求され、ハイリスク・ハイリターンといわれるFX。国民生活センターに寄せられた取引に関する相談件数は令和3年度は5年前の5倍で過去最多の3021件となった。
FXに関する知識やノウハウを提供する「大阪FX教室」(大阪府豊中市)を運営する奥沢智宏氏は「数年前からSNS上の投資勧誘が活発化しており、トラブルとなっている事例を聞く」と指摘。「『絶対にもうかる』といった甘い誘い文句に安易に飛びつかないことが大事だ」とする。
国も警戒を強める。金融庁では、8月からX上で資産運用を促す不審なアカウントを発見した際に、他のユーザーに注意喚起する取り組みをスタート。同庁の担当者は「SNS上の自称投資家を安易に信用せず、不審な点がある場合は相談してほしい」としている。(土屋宏剛)

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