「限界です」…100日連続勤務で過労自殺 26歳研修医を追い詰めた「自己研鑽」の裏側

「限界です」。昨年5月、26歳の若手医師が遺書をつづり、過労自殺した。労働基準監督署の認定では直前1カ月の時間外労働は200時間を超え、連続勤務は100日に達した。一方、勤務先の病院は過重労働ではなく、高度な知識や技能を身に付ける「自己研鑽(けんさん)」が含まれるとの見解だ。来年4月から始まる医師の働き方改革。働きやすさと高度な医療確保の両立という難題を抱える中、自己研鑽の扱いが焦点となっている。
遺書につづられた苦悩
《知らぬ間に一段ずつ階段を昇っていたみたいです。おかあさん、おとうさんの事を考えてこうならないようにしていたけれど限界です。両親に本当に感謝しています》
こうした遺書を残して自殺したのは、神戸市の基幹病院「甲南医療センター」の専攻医(旧後期研修医)だった高島晨伍(しんご)さん。西宮労働基準監督署は今年6月、労災と認定した。
白衣の父の背中を追って同じ道を志した。神戸大卒業後の令和2年4月、研修医としてこの病院で働き始め、昨年4月から消化器内科で診療を担当した。
労基署の認定によると、直前1カ月間の時間外労働は207時間50分。3カ月平均でも月約185時間で、国が定める精神障害の労災認定基準を大幅に超過。休日もなく、100日連続で勤務し、死亡当日も夕方まで働いていた。
母の淳子さん(60)は死亡直前、高島さんが「しんどい。誰も助けてくれない」とこぼすのを耳にしていた。
「自己研鑽」は労働にあらず?
「自主性を考慮した職場環境だった。過重な労働を課した認識はない」。高島さんの過労自殺が報道された8月、具(ぐ)英成(えいせい)院長は、労基署が認定した時間外労働には、自己研鑽や睡眠時間などが含まれると反論した。
来年4月からの医師の働き方改革で、勤務医の残業と休日労働は原則年960時間までに制限されるが、自己研鑽は労働時間に含まれない。
ただ、医学界には「医師は生涯学習するから医師である」との認識も存在する。労働との線引きは曖昧だ。
厚生労働省は元年の通達で、上司の指示があれば学会への参加や論文の執筆などは労働時間、自由な意思に基づいて行う場合は労働には該当しないなどとする指針を出したが、不明瞭な実態が長時間労働の一因になっているとの指摘は根強い。
実際に高島さんの場合も、病院へ報告されていた時間外労働時間は死亡する前月が30・5時間、当月はゼロ。労基署の認定とは大きな乖離(かいり)があった。
困難な医師の働き方改革
深刻化する長時間労働の改善は必須だが、出勤可能な医師の減少による医療サービスの低下も避けなければならず、一筋縄ではいかない。
働き方改革に向けて厚労省が開いた検討会でも、参加した現役医師らから「一律に勤務時間の上限を決めると、今の医療提供体制の維持は難しい」「専攻医は、(労働時間を)制限されると必要な技術や知識を身に付けることが難しくなる」などの意見が上がった。
常勤・非常勤合わせて約700人の医師が所属する「近畿大病院」(大阪府大阪狭山市)では、上司の指導や指示がある場合は労働時間としているというが、東田有智(ゆうぢ)院長(70)は「労働か自己研鑽かの線引きは難しい」と打ち明ける。
東田氏は、働き方改革によって「むちゃな働き方はなくなるのではないか」とみるが、1人の医師が働ける時間が少なくなる分、人手不足に陥る懸念も消えない。
近大病院では今年4月から土曜日の外来診療をやめ、月の労働時間が長い医師の休日取得に充てるなどの対策を開始。東田氏は「患者やその家族にも働き方改革を知ってもらい、理解いただきたい」としている。(小川原咲)

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