2017年に神戸市北区で5人が殺傷された事件の裁判。「犯行時に心神喪失だった疑いが残る」として、1審に続き今年9月の控訴審でも、被告の男性に無罪が言い渡されましたが、検察側は最高裁に上告しませんでした。これにより、男性の無罪判決が確定しました。 ▼争点は「心神喪失」か「心神耗弱」か 被告だった男性(32)は2017年7月、神戸市北区の自宅で、祖父母(いずれも当時83)を金属バットで殴ったり包丁で刺したりして殺害したほか、自宅近くに住む女性(当時79)も包丁で刺し殺害。母親と近隣女性の2人にも重傷を負わせました。 この事件では、男性の犯行が「自分と元同級生の女性以外の人は、姿は人間だが自我や感情がない存在『哲学的ゾンビ』であり、女性と結婚するためには『哲学的ゾンビ』を倒さなければならない」という内容の、妄想・幻聴に拠るものだった点は認定されました。 その上で裁判では、男性が当時、「心神耗弱」=善悪を判断し行動を制御する能力が、著しく低下していたがゼロではない状態だったか、「心神喪失」=そうした能力が完全にない状態だったかが争われました。 日本の刑法では「心神喪失者の行為は罰しない」と定められています。 ▼「妄想などの圧倒的影響下で犯行に及んだ疑い払拭できず」1審・2審とも「無罪」 結果的に1審の神戸地裁(2021年11月判決)と、2審の大阪高裁(今年9月25日判決)は、「妄想や幻聴の『圧倒的影響下』で、被害者らを哲学的ゾンビと確信して犯行に及んだ疑いを払拭できず、『心神喪失』だった合理的な疑いが残る」として、いずれも男性に無罪を言い渡していました。 大阪高裁での無罪判決を受け、検察側は最高裁に上告するかについては「判決内容を精査し適切に対応する」としていましたが、期限の10月10日までに、検察側は上告しなかったということです。 これにより、男性の無罪判決が確定しました。 今後は「心神喪失者等医療観察法」に基づき、男性にどのような医療観察を受けさせるべきかを諮るために、検察側が裁判所に申し立てを行い、裁判所での審判で対応が決められていくことになります。 大阪高検は『判決内容を十分に検討したが、適切な上告理由が見出せなかった』とコメントしています。