「内閣が飛んでしまう」 解散命令請求に動いた文化庁、調査には限界も

東京地裁に対し、13日にも行われることになった解散命令請求。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題は今後、司法に委ねられる。当初、請求や質問権行使に消極的だった文化庁だが、政権の行方すら左右しかねない問題に発展したことで、重い腰を上げざるを得なかった。ただ、宗教法人審議会の内部では、請求ありきの進め方に異論もあったとされ、文化庁側は「内閣が飛んでしまう」と訴えて合意形成を図った。
朝令暮改に不満
学識経験者や宗教関係者で構成される審議会。当初、文化庁の手法に異論を唱えたのは特に宗教関係者だった。不満の一端は岸田文雄首相による〝朝令暮改〟だ。岸田首相は昨年10月の国会答弁で、解散命令請求の要件となる法令違反は刑事事件を指すとの見解を示し教団の調査に消極的な姿勢を示したが、翌日に解釈を変更、民法の法令違反も入り得るとした。
宗教界から選出されたある委員は、文化庁の調査が大詰めに入った今年9月、「今でも政府見解の変更には納得していない」と周囲に漏らした。一夜でひっくり返った法解釈に、宗教界は「信教の自由」への影響を憂慮した。それでも文化庁は審議会で「(教団に何もしなければ)内閣が飛んでしまう」と呼びかけ、請求の前提となる質問権行使の正当性を訴えた。
文化庁側は合意形成に向けて、審議会の委員に地道な説明も続けた。質問権行使には審議会の了承が必要だが、場合によっては、審議会開催前に文化庁の担当者が委員の自宅などを訪問。詳細な資料を使って今後の質問内容などを説明。一方で、説明資料はすべて担当者が回収、秘密主義を徹底した。
困難極めた1年
他省庁に応援を求めるなど担当者を従来の8人から約40人体制まで大幅増員した文化庁。それでも前例のない調査は困難を極めた。
オウム真理教による一連の事件を契機に平成7年の法改正で盛り込まれた質問権の規定だが、事件捜査のような証拠物の押収ができないなど、制限は多い。当初から「教団側は都合のよい資料しか提出しないだろう」(文部科学省幹部)との見立てが大勢を占めた。
このため、献金被害者らの聴取などを通して証拠を積み上げざるを得なかった。盛山正仁文科相は「収集した証拠を体系的に分析した。十分に請求できる」と1年弱の調査の成果を強調したが、関係者によると、教団の資金移動などで不明な点が今も残るという。
そこで文化庁は教団側が質問権行使に十分に対応していないとして東京地裁に過料を請求するよう通知した。調査に手詰まり感が出る中、あらゆる調査や手続きを尽くした上で請求に至ったことを強調する一つの策だったともいえる。
曲折の末、行われることになった解散命令請求。今後は司法の場に判断が委ねられることになる。

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