衝撃事件の核心 練炭28個と大量のガソリン準備 住職殺害、霊園の運営巡る恨みか

東京都足立区で約500年もの歴史がある古刹「源証寺」で7月、寺の住職が納骨堂内で一酸化炭素中毒で倒れ、死亡した。発生から2カ月半後、住職を殺害したとして警視庁に逮捕されたのは、寺の霊園を運営する会社の社長ら男女2人だった。敷地内からは大量の練炭とガソリン入りペットボトルが見つかり、その手口からは強い殺意が浮かぶ。3人の間に一体何があったのか。
卒塔婆の上に練炭
7月23日午前8時半ごろ、源証寺から119番通報があり、駆け付けた複数台の消防車や捜査車両で、周辺は物々しい雰囲気に包まれていた。
この日、寺の住職の大谷忍昌さん=当時(70)=が敷地内にある地下納骨堂で突如倒れ、搬送先の病院で死亡した。
大谷さんが倒れた納骨堂内は、異様な状況だった。骨壺が置かれた納骨堂は幅・奥行き約4メートル、高さ約3メートルの広さ。その床に、火が付けられた28個もの練炭が卒塔婆の上に乗せられた状態で並んでいた。
はしごを使い納骨堂に入った大谷さんが見覚えのない練炭に気付き、運び出そうと妻を呼んで再び中に入ったところ、まもなく意識を失った。内部は一酸化炭素が充満していたとみられ、大谷さんの死因は一酸化炭素中毒だった。
普段、寺で練炭を使用することはなく、捜査1課は殺人事件の可能性があると捜査を開始。調べを進めると、ある2人の存在が浮上した。
宗派巡り対立
事件が急展開を迎えたのは、発生から2カ月半がたった今月7日。殺人と建造物侵入の疑いで逮捕されたのは霊園開発会社「鵠祥堂」(千葉県鎌ケ谷市)の社長、斎藤竜太(50)=同市=と、取締役の青木淳子(63)=東京都練馬区=の両容疑者。
斎藤容疑者と大谷さんは令和元年に知り合い、翌年3月から寺と業務を締結。同社は寺の霊園「足立セメタリーパーク」の販売や運営などを担っていた。
当初、運営は順調だったが、次第に販売対象の宗派で意見が対立。同社は宗派を問わず多くの人に墓地を販売したい一方、大谷さんは在来仏教徒に限定。話し合いを巡り、青木容疑者は寺から出入り禁止を言い渡されていたといい、墓石の売れ行きも良くなかったとみられる。
強い殺意
事件前日の深夜、寺周辺の防犯カメラなどには斎藤容疑者が自身の乗用車で青木容疑者と寺に向かい、敷地内に侵入する姿が映っていた。事件では練炭だけではなく、敷地内の焼却炉から約20リットルのガソリンが入ったペットボトル十数本も見つかった。
数日前から斎藤容疑者が複数日に分けて練炭やガソリンを買い集めており、捜査本部は2人が大谷さんの行動パターンや予定を事前に把握した上で、周到に準備していたとみている。
寺の納骨堂は南北で2部屋あるが、練炭は南側だけに置かれていた。納骨などで使われるのは南側が中心で、事件当日は納骨が予定されていた。
さらに、ガソリン入りペットボトルが仕掛けられていた焼却炉は、主に大谷さんが使用。捜査本部は2人が一酸化炭素中毒か、焼却炉使用時に爆発させて殺害を狙った可能性もあるとみている。
逮捕後の家宅捜索で、斎藤容疑者が契約していた鎌ケ谷市のトランクルームからは、さらに数十個の練炭や着火剤が見つかり、強い殺意をうかがわせる。
霊園の運営方針を巡り、溝が深まったとみられる3人。捜査本部は、事件に至った動機などの調べを進めている。(王美慧、内田優作)

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