2025年6月まで川勝知事の居座りは決定事項…失言連発&リニア妨害なのに自民党が対抗馬を立てない理由

静岡県議会9月定例会は荒れに荒れた。川勝平太知事の給与未返上問題で大騒ぎしたかと思えば、最終日の10月13日には、前日の12日の県商工会議所連合会との懇談会で、川勝知事の「不穏当発言」が飛び出し、県議会最大会派の自民党県議団の怒りを買うことになった。
詳しくは後述するが、川勝知事がまだ県議会に諮っていない新たな文化施設の建設構想を外部懇談会で語ってしまったのだ。
このため、丸一日、空転を繰り返す大荒れの状態が続いた。
結局、知事の給与減額条例案を含めて一般会計補正予算案など計30議案を知事提案通りに全会一致で可決して閉会したのは午後7時を回っていた。
県議会は紛糾したが、「不穏当発言ではない」とする川勝知事の逃げ切りを許しただけで、自民党県議団の打つ手なしの状態が際立ってしまった。
次回の12月県議会に、副知事の退職金辞退問題と今回の「不穏当発言」の2つの火種が残った。
しかし、県議会の対応を見れば、川勝知事の独断専行の行政運営をどうすることもできず、リニア問題の解決同様に、川勝知事の自らの退場を待つしかない状況だとはっきりわかる。
川勝知事は現在75歳。25年7月の任期満了まで2年を切った。
もし、2025年6月の県知事選に向けて5期目の出馬を決断すれば、前回選で元国交副大臣の自民党推薦候補に圧勝したときと変わりなく、川勝知事の楽勝が予想される。
いまのところ、自民県議団に新たな知事選候補者のめどさえ立っていないのだから、当然と言えば当然の予想である。
3年ほど前、「なぜ、川勝知事は選挙に強いのか」との質問に、静岡新聞が「自民党がだらしないから」とコラム記事に書いていた通りの結果がいまでも続いているのだ。
本稿では、9月県議会最終日になぜ、川勝知事の「不穏当発言」を巡って紛糾したのかを解説するとともに、川勝知事のデタラメな行政運営を野放しにする県議会の責任の所在をわかりやすく伝える。
今回の大騒ぎは、県議会最終日となった13日付中日新聞の記事が火元となった。
『知事「三島に東アジア文化施設を」 議会諮らずに先行発言』との朝刊見出し記事に、自民党県議団は早朝から対応を迫られた。
前日の12日、静岡県商工会議所連合会会長、県内の商議所会頭らが2024年度予算に向けた要望書を川勝知事に手渡した。
その際、観光振興の来年度要望があったことから、川勝知事は、現在県内で開催中の国際文化交流事業「東アジア文化都市」に触れ、「東アジア文化都市のレガシーを発展的に継承したい。どこか、この拠点を求めたい。新幹線が止まるところがいい、三島を拠点に東アジア文化都市のセンターのようなものを置きたい。いま土地を物色している。実際は国の土地を譲ってもらう詰めの段階に入っている。それも買わないで定期借地で借りて伊豆半島の方たちと一緒に使える施設にしたい」などと、具体的な予算化も決まっていない計画案を外部の民間団体に明かしてしまった。
当然、県議会には何ひとつ諮っていない段階であり、事業計画の妥当性をはじめ、今後、来年度予算案の審議などで明らかにする手続きを踏んでいなかった。川勝知事は6月県議会で知事不信任決議案を提出され、1票差で可決を免れたばかり。その後の定例会見で「今後は議会とのコミュニケーションを密にする」と約束していた。
ところが、「東アジア文化都市の発展的継承センター」という新規事業は、県議会には寝耳に水であり、知事の独断専行で進められていた。議会を尊重するとした約束を早速反故にされたと自民党県議団が考えてもおかしくないのだ。
「東アジア文化都市」とは日中韓の3カ国で、文化芸術による交流発展を目指す文科省主催の国際イベント。2023年は日本の都市に静岡県が選ばれ、ことし12月まで中国の成都市、梅州市、韓国の全州(チョンジュ)市との間でさまざまなイベントを開催して、文化交流を図っている最中である。
ただ「東アジア文化都市」の認知度は非常に低く、県民にはほとんど知られていない。中国の梅州市、韓国の全州市についても、日本の知名度は低い。
ところが、川勝知事は「東アジア文化都市」に前のめりで、「静岡県を日本の文化都市」にするとして、イベントの最高顧問に、近藤誠一・元文化庁長官、遠山敦子・元文科相、橋本聖子参院議員を起用する熱の入れようだった。
実際は、文科省が毎年、各県を持ち回りで指名するイベントであり、他県で「東アジア文化都市」をきっかけに、そのようなレガシー施設を造ったとは聞いたことがない。
またイベントと言っても、浜松まつり、静岡ホビーショーなど既存の祭りや行事などを「東アジア文化都市」プログラムに含めて、全体の参加人数を水増ししているのが実情である。
イベントが終わってもいない段階で、「レガシー拠点の創出」と言い出すのは川勝知事の独り善がりでしかない。
本会議で釈明に追われた川勝知事は「観光振興策として東アジア文化都市のレガシー拠点となる『発展的継承センター』とする共通理解がある」などと述べた上で、「職員レベルの内部検討は進んでいるが、何も決まっていないのが実情だ」と言い逃れした。
もし、川勝知事の言う通りに何も決まっていない段階ならば、三島商工会議所を含めた外部の民間団体に、「三島にレガシー拠点の継承施設を置く」などの断定的な発言をすること自体がおかしい。
無責任な発言であることを川勝知事が認めているのか、単に県議会の追及をかわしたい逃げ口上なのかのいずれである。
当然この回答に納得できるはずもなく、本会議の緊急質問で、自民党県議が「不穏当発言ではないか」とただした。
これに対して、川勝知事は「不穏当ではない」と否定し続けた。
川勝知事にはやすやすと「不穏当だった」と認めて、謝罪することのできない理由があった。
10月6日の県議会総務委員会で、知事の給与減額条例案に伴い5項目の「附帯決議」を全会一致で採択している。
そのうち、最も重要な1項目に、「今後、仮に不適切な発言があった場合には辞職するとの発言に責任を持つこと」が含まれていたのである。
つまり、川勝知事は発言を「不穏当」を認めたと同時に、「不適切な発言があった」と追及され、辞職を求められることは目に見えていた。
あくまでも川勝知事はしらを切るしかなかった。
結局、審議は平行線をたどり、自民党県議団の追及もそこで終わりだった。この問題を閉会中審査で追及することを決め、12月県議会に先送りした。
仮に、9月県議会で、「不穏当発言ではない」とする川勝知事の認識の不自然な点をあぶりだして、政局に持っていったとしても、6月県議会同様に知事不信任決議案の否決という結果は見えていた。
つまり、打つ手なしなのだ。
川勝知事の「暴走」が問題となったのはこれが初めてではない。
「不適切な発言があったことを認め、すべて撤回します。不信を抱かれた方々におわびします」
川勝知事がこのように自民党県議団に謝罪をしたのは、2020年1月30日、いまから4年近く前の話である。
発端は2019年12月20日付静岡新聞に載った『「文化力の拠点」巡り 自民念頭に知事「ごろつき」批判』という小さな記事だった。
記事は、来年度予算要望で懇談した公明党県議団、共産党県議に対して、JR東静岡駅南口に計画した「文化力の拠点」整備に、自民党県議団が反対していることを不満に持った川勝知事が「やくざ、ごろつきの集団」と強い言葉で批判、さらに「県議会はなぜ足を引っ張るのか。反対する人は県議の資格はない」などと述べたことを伝えた。
当初、川勝知事は会見で「撤回する必要はない」「そんなことを言った覚えはない」など否定していた。
静岡新聞記者が「議会の要請があれば、音声記録を提供する」と述べると、前言を翻して、川勝知事は「図書館建設に反対する人はいない。県民みなが欲しいと言っているものに反対するのは公益に反する」などとして、「やくざ、ごろつき」「県議の資格はない」発言を認めた。
最終的に、「文化力の拠点」事業は、県立中央図書館建設のみを残す形で白紙撤回して決着した。その際、「不適切な発言があったことを認め、すべて撤回します」と自民党県議団へ謝罪した。
「文化力の拠点」も川勝知事が前のめりで進めた事業だ。
2014年の「文化力の拠点」計画の立ち上げで、川勝知事は「静岡県に必要な価値の体系」などと訳のわからない説明をした。具体的にどのような施設を建設したいのか全く不明で、理念だけが先行した。
その後、現在の県立中央図書館の床にヒビが入るなど老朽化で移転が求められる状況が明らかになると、図書館を「文化力の拠点」の中心施設に据えた。
2017年6月の知事選で川勝知事は、静岡市を廃止して、県の特別区を設置する「静岡県都構想」を公約の目玉に掲げた。
同構想では、図書館、美術館などの「二重行政」解消を目指すとしていた。
その舌の乾かぬ2019年12月に、静岡市のJR東静岡駅南口に県立中央図書館を建設することを決めてしまったのだ。
静岡市立図書館は他市町に比べて充実しており、県立図書館を静岡市に建設する必要性は薄い。県施設が少ないと不満が多い浜松市にでも建設したほうが、知事の主張の整合性が取れたはずだ。
自身が言い出した「県都構想」とは逆行しているが、ただ当初の「文化力の拠点」が何なのか職員にも理解できず、図書館建設で何とかかたちを繕ったのだ。
結局、「県都構想」は予算も職員もつかず、川勝知事の絵に描いた餅に過ぎなかった。これらが、いい加減な川勝知事の行政運営を示す証拠である。
今回の東アジア文化都市のレガシー拠点となる「発展的継承センター」もあまりに唐突であり、川勝知事が無責任な思いつきで口走ったのだろう。
こんな川勝知事の独断専行の行政運営にストップを掛けられるのは議会の力しかない。
「やくざ、ごろつき」「県会議員の資格はない」とくそみそにけなされた自民党県議団だが、その後1年半もあった2021年6月の県知事選で候補擁立に手間取り、結局、自民党推薦候補は川勝知事に約33万票の大差をつけられ大敗した。
12月県議会で川勝知事と対峙(たいじ)するのであれば、自民党県議団は知事候補者の擁立を何としても急がなければならない。川勝知事の自らの退場を期待するほうがおかしい。
12月県議会が終わると、1年半後には県知事選である。
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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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