和歌山市の岸田文雄首相の演説会場で4月、爆発物が投げ込まれた事件で、和歌山県警は31日、殺人未遂容疑などで無職、木村隆二容疑者(24)=鑑定留置中=を追送検した。木村容疑者は逮捕後の取り調べに黙秘を貫く一方、過去の言動から現行の選挙制度に強い不満を持っていたことが明らかになっている。捜査当局はこうした不満が事件の動機につながった可能性もあるとみており、精神鑑定で刑事責任能力に問題ないと判断されれば、起訴に向けた詰めの捜査を進める方針だ。
「立件できるものは、すべて立件すべくやった」。県警幹部は追送検後、こう話した。
県警は木村容疑者の鑑定留置中、証拠品の精査やパイプ爆弾の構造を詳しく調べて殺傷能力を確認。殺人未遂容疑や公選法違反容疑などでの立件にこぎ着けた。ただ、パイプ爆弾の製造過程の詳細や、選挙演説しようとした岸田首相にパイプ爆弾を投げ込んだ動機は、本人が語らぬままだ。
動機を推察する上で捜査当局が着目するのが、事件前の昨年6月に木村容疑者が起こした国賠訴訟。木村容疑者は公選法が定める被選挙権年齢などに不満を募らせ、交流サイト(SNS)に強い憤りもつづっていた。
近畿大の辻本典央(のりお)教授(刑事訴訟法)は、こうした事情から「選挙制度に不満を持ち、選挙を妨害する意図があったと強く推測される」と指摘。安倍晋三元首相銃撃事件の山上徹也被告(42)=殺人罪などで起訴=を巡っては、選挙妨害の意図を立証するのが困難として公選法違反罪での起訴は見送られたが、辻本氏は「現段階で山上被告のように特定の個人への殺意は口にしておらず、(木村容疑者に)公選法違反罪を適用するハードルは低い」とみる。
刑事事件に詳しい元大阪地検検事の亀井正貴弁護士も「木村容疑者は黙秘しているが、外形的に少なくとも選挙制度への不満が推認できる。街頭演説は中断を余儀なくされており、起訴するのに必要な条件は十分あるだろう」と話している。