「特捜検察」の暴走、なぜ無罪判決が相次ぐのか ストーリー優先で証拠集め、調書は検事の作文

司法試験の受験者数が激減。弁護士は「食えない」「AIが代替する」と敬遠され、若き裁判官の離職が相次ぎ、検察官は供述をねじ曲げるーー。『週刊東洋経済』の9月4日(月)発売号(9月9日号)では、「弁護士・裁判官・検察官」を特集。実態とともに、司法インフラの瓦解の足音をお伝えする。
「お試しで逮捕、起訴なんてことはありえないんだよ。俺たちはいいかげんな仕事はできないんだよ。人の人生狂わせる権力持ってるから、こんなちっぽけな誤審とかで人を殺すことだってできるんですよ。失敗したら腹を切らなきゃいけないんだよ。命かけてるんだよ、俺たちは。あなたたちみたいに金をかけているんじゃねえんだ。金なんかよりも大事な命と人の人生を天秤にかけてこっちは仕事をしてるんだよ。なめるんじゃねーよ。必死なんだよ」
【図表で見る】特捜検察の証拠集め・供述聴取・裁判所対策の手法20
これは大阪地検特捜部の田渕大輔検事(肩書は当時、以下同じ)が、不動産開発会社プレサンスコーポレーションの小林桂樹・執行役員の取り調べで放った言葉だ。2019年12月のことだ。
人生は狂わされた
田渕の言葉どおり、プレサンスの山岸忍社長の人生は狂わされた。否認をし続けた山岸は248日間勾留された。勾留中に社長を辞任し、自分が創業したプレサンスの株を同業他社に売却した。
ところが山岸の逮捕、起訴は検察の大チョンボだった。田渕は小林にウソの供述をさせていた。大阪地裁はそのことを見抜き、山岸に無罪を言い渡した。検察は控訴を断念した。
飛ぶ鳥を落とす勢いだったプレサンスを経営危機に陥れておきながら、大阪地検から当事者の山岸に謝罪の言葉はまったくない。
厚生労働省の雇用均等・児童家庭局、村木厚子局長事件で無罪を勝ち取った弘中惇一郎弁護士は、近著『特捜検察の正体』の中でプレサンス事件について「大阪地検特捜部は村木事件と同じ過ちを繰り返してしまった」と書いている。
村木事件をきっかけに導入された取り調べの録音録画がされている中で、田渕は取調室の机をたたき、小林を侮辱し、精神的苦痛を与えた。大阪地裁は「録音録画された中でこのような取り調べが行われたこと自体が驚くべき由々しき事態」と指摘している。
弘中は前出の著書の中で、検察が事件をでっち上げる手法を20に分類している。村木事件など過去に受任した冤罪(えんざい)事件での手法だが、これらは今もなお使われている。

例えばプレサンス事件では「山岸が横領を知っていた」という誤った見立てで証拠集めをした(上表の手法1)。長期勾留し山岸を心身ともに追い込んだ(同9)。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする