福島第一原発の処理水海洋放出をきっかけに中国からの嫌がらせ行為が過熱し、国内のみならず中国に滞在する日本人たちも「反日攻撃」の危機にさらされている。岸田文雄・首相は中国側の出方を読み間違い、後手後手の対応しかできず、完全に手詰まり状態に陥っている。
安倍政権で外務大臣を歴代最長の4年7か月務めて「外交の岸田」を自任する岸田首相は、この9月にインドネシアやインドを訪問。国連総会への出席を予定し、ASEAN首脳会議では中国の李強首相との会談を調整している。
だが、この間の不手際を見ると、トップ会談で事態を収拾する手腕があるとは思えない。政治評論家の有馬晴海氏が語る。
「“外交の岸田”と言うけれど、安倍政権時代は外交判断はすべて安倍晋三総理、官邸が担う官邸外交が行なわれていました。だから岸田外相は海外に出向いて安倍総理の意向を伝え、相手の反応を安倍総理にきっちり報告する伝書鳩の役割だった。
安倍さんは岸田さんの説明を『手に取るように分かる』と評価していたほどですが、岸田さんの外交の実績はそんなものなのです。中国は当然、そのことを見透かしている。だから、岸田総理は基本的に中国から舐められているわけです」
中国に翻弄されるばかりの岸田政権と対照的に、「中国包囲網」の中心にいる米国は中国としたたかに交渉している。
米国は2018年から中国からの輸入に高い追加関税を課す対中制裁措置を発動し、バイデン政権になると中国を「世界秩序を再編する意図と、それを成し遂げるための経済・外交・軍事・技術力とを併せ持つ唯一の競争相手」と位置づけて昨年10月に半導体の輸出規制を強化、中国側も対抗措置を取ってきた。
まさに米中経済戦争が激化しているように見えるが、実は、中国の対米輸出額は過去3年連続で増加し、昨年の米中貿易額は過去最高に達している(日本貿易振興機構調べ)。 外務省関係者が語る。
「バイデン政権は7月にイエレン財務長官、8月にはレモンド商務長官を訪中させ、米中で貿易や投資の協議機関を設置することを決めた。日本に半導体製造装置などの対中輸出を規制するように求める一方で、それ以外の分野で米国の対中貿易を拡大しようとしている。国内経済が冷え込む中国も米国との経済関係修復に動きながら、日本だけに強硬姿勢をとっている」
予期できた問題を甘く見て対応が後手後手に回り、事態をさらに深刻化させる──岸田首相の対中問題への対応はマイナ問題と同じだ。したたかな国際政治の舞台で“外交の岸田”は何もできない。
かつて日本政府が尖閣諸島を国有化した時、中国では反日デモが吹き荒れ、日系デパートの打ち壊しまで起きた。中国はなりふりかまわずやる。
岸田首相の無策で中国に反論も反撃もできず、日本叩きに打つ手もない。それで大きな被害を受けるのは日本の国民と企業なのだ。
※週刊ポスト2023年9月15・22日号