運輸安全委「出航判断が事故の要因」 知床観光船事故、最終報告

北海道・知床半島沖で2022年4月、観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没し、20人が死亡、6人が行方不明となった事故で、原因を調査した国の運輸安全委員会は7日、最終報告書を公表した。不具合があったハッチから海水が流入し、浸水が広がったことが直接の原因と指摘。悪天候が予想される中で出航した運航会社の判断や安全管理体制の欠如が事故の要因だったと結論づけた。
安全委は報告書で国側の問題点にも触れ、監査・検査の実効性や捜索・救助体制に課題があったとした。
報告書によると、船底につながるハッチは約50センチ四方で、四隅の留め具でふたを固定する仕組みだった。しかし、安全委の再現実験で全ての留め具がきちんとかからず、ふたが浮いた状態だったことが判明。このため、船体の揺れでふたが開き、海水が流入した。
船底は四つの区画に分かれていたが、区画を仕切る隔壁に穴があったため、4区画すべてに浸水が広がり、3区画目にあった機関室のエンジンが停止。海水の流入も続き、沈没に至ったとみられる。ハッチと隔壁のどちらかが正常なら、沈没は回避できたという。
安全委はこうした船体の状況を原因とする一方、「悪天候下で航行しなければ事故は起きなかった」とも指摘し、出航や運航継続の判断も要因だと強調した。
カズワンの運航会社は「風速8メートル以上、波高1メートル以上」になる可能性がある場合は出航を中止するとの基準を定めていた。当日の出航時には風速15メートル、波の高さが2メートル以上になるとして強風・波浪注意報が出ていた。それにもかかわらず、出航して運航を継続した。
運航会社の桂田精一社長は事故直後の記者会見で、海が荒れるようなら引き返す「条件付き運航」だったと釈明したが、安全委は「出航前の段階で運航中止基準に達する恐れがあったことは明らか。出航自体を中止すべきだった」と断じた。【内橋寿明、黒川晋史】

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