富士山登山鉄道構想発表2年 「環境守る」知事と市長、議論再燃

世界文化遺産登録10周年を迎え、観光客数の抑制や自然環境保全が課題となる富士山を巡り、山梨県が検討している「富士山登山鉄道構想」の議論が再燃している。長崎幸太郎知事は環境に悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」の観点から必要性を強調するが、お膝元の富士吉田市は大規模工事による自然破壊を懸念し反対を貫く。発表から2年以上が過ぎた構想の実現性は不透明なままで、信仰の山のあり方を問う論争が続く。【佐藤薫】
「富士山は悲鳴を上げている。(観光について)量から質へ転換を考えるべきだ」。8月、日本外国特派員協会(東京都)であった講演で、長崎知事は観光客数の抑制や車両規制をし、富士山の自然破壊を最小限にする手法として鉄道が最適だと強調した。
県が有識者から提言を受け、検討を進めている構想は、富士山のふもとと5合目を結ぶ有料道路「富士スバルライン道路」上の約25キロに敷設した軌道上に、新たに騒音や揺れを抑えた「次世代型路面電車(LRT)」を整備するもの。1編成の乗客は120人で、上りが約52分、速度制限を行う下りは約74分を要する。整備費は約1400億円と見積もり、往復運賃を1万円とした場合は、年間約300万人の利用者を見込んでいる。
こうした構想に、地元の富士吉田市は異議を唱える。9月号の「広報ふじよしだ」で富士山に関する特集を掲載。県の構想についても触れ、巨額の整備費用は容認できないとした上で、「地元自治体や関係団体と地に足の付いた議論を重ねていくべきだ」と、反対の姿勢を鮮明にした。
7日の定例会見で同市の堀内茂市長は、掲載について、地元市民に富士山を守る姿勢を示すためと説明。新たな鉄道の整備ではなく、乗り入れできる車両を電気バスだけにすることや、富士スバルラインで実施している自家用車の乗り入れ規制の期間延長することなどで、環境保全に対応できると強調した。秋にも、地元の観光事業者や交通事業者と意見交換する場を設ける考えを示した。
富士山には、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年には約506万人の観光客が山梨県側の5合目を訪れており、世界文化遺産登録後は増加傾向にある。一方、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、過度な観光客数の増加は神聖な雰囲気を損なうなどとして、抑制を求めてきた経緯がある。
また、世界遺産エリアでの開発行為には自然公園法などに基づく手続きが必要だ。世界文化遺産10周年の節目を迎えた富士山は、環境と観光という相反する課題の両立が問われている。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする