税制特権-宗教法人法を問う ㊤ただの一軒家が非課税に…見回りわずか30分、漫然と認定

東日本の地方都市の郊外に建つ何の変哲もない一軒家。ここに神道系の宗教法人の本部が存在する。管理するのは「総代」と呼ばれる20代の男性。洋間の神棚から宗教色はうかがえるものの、リビングには洗濯物が散らかり、酎ハイの空き缶が倒れたままなど辺りには生活臭が染みわたる。
男性は毎日神棚に手を合わせるというが、教義に関する知識は「勉強中」とうそぶく。実際は単に建物の管理を任されているだけのようだ。
法人トップの代表役員によると、数年前、休眠して活動実態のない「不活動宗教法人」の法人格を譲り受けた。「細々と宗教儀式はしている」とはいうものの、この法人を所轄する都道府県は、代表役員の交代後も宗教活動の実態が不透明なことなどを理由に、不活動法人の枠内に留め置く。
不活動法人なら税優遇が認められない可能性もあったが、市側は一軒家の土地と建物を「宗教施設」として固定資産税を非課税とした。なぜ、ただの一軒家が宗教施設と認められ、税の優遇措置が適用されるのか。ある宗教関係者はこう語る。
「市町村は宗教活動の実態を厳しくチェックしないまま、『それっぽい雰囲気』を整えれば、不活動法人でも固定資産税の非課税は認める。法人格さえあれば、税優遇を受けることは簡単だ」
専門知識持たず
一軒家の固定資産税が非課税となったのは数年前、代表役員が法人格を譲り受けた直後のことだった。不活動法人と認定されているのも知らないのか、市の職員1人が家の中を30分ほど見回って写真を撮るなどしただけで非課税が決まった。
法人側は職員に、リビングのソファを「集まった信者の休憩用」と説明し、神棚は「定期的に礼拝している」と伝えた。神棚のそばに神道とは無関係の仏具があったりもしたが、職員が疑問を示すことはなかった。
地方税法348条は、宗教法人の活動拠点にある建物や境内地の固定資産税を課税対象外と定める。国の法律とはいえ、実際に非課税の判断を受け持つのは主に市町村。固定資産税の担当部局では通常、宗教施設の非課税判断は業務のごく一部に過ぎず、職員が宗教上の専門知識を持つケースは極めてまれだ。
この一軒家を市側がチェックしたのは数年前の一度だけ。その後、20代男性の事実上の自宅になった。宗教関係者は「近隣トラブルや刑事事件などが起きない限り、非課税措置が取り消されることはない」と言い切る。
縦割り行政弊害
全国に約18万ある宗教法人は原則、優遇措置として宗教活動に課税されない。活動にかかる法人税のほか、活動拠点の敷地や建物に対する固定資産税なども非課税だ。
ただ、法人税などの徴収は国税庁(国)、固定資産税の徴収は市町村が担う一方、不活動法人を認定するのは文化庁(国)や都道府県で、管轄はばらばらだ。こうした縦割り行政が連携不足を生み、漫然とした税優遇の横行を招いている。
産経新聞が今回、全国20政令市と東京都にある固定資産税の担当部局に実施したアンケートでは、状況に応じて不活動法人を固定資産税の優遇措置から除外するとの回答が大半を占めた。一方で不活動法人を認定する都道府県から情報提供を受けていると答えた自治体は全くなかった。
全国に存在する不活動法人は3300余り。文化庁は税優遇などを悪用した脱税など不正の温床となる恐れがあるとして、解散を加速させる方針を示している。
ところが、アンケートの過程で、複数の担当者が「不活動宗教法人という文言自体を初めて聞いた」とも明かした。不活動法人に対する市町村側の認識不足は、不正をもくろむ勢力に対するチェックの甘さを生み、付け入る隙を与えかねない。
緩い市町村が狙い
宗教法人はお布施なども非課税だ。この仕組みを隠れみのに、納税を免れた資金や犯罪収益の隠蔽(いんぺい)先として、法人名義の口座や貸金庫を悪用する者がいるとされる。
こうした反社会勢力は当然、法人の登記先としてチェックの緩い市町村を選ぼうとする。宗教法人の買収経験がある関係者は「宗教法人に対する監視の目が緩い自治体を教えてほしい」との相談を受けたと証言する。
宗教制度に詳しい紀藤正樹弁護士は、宗教法人法で法人格が認められれば、以降は税優遇をほぼ一貫して受けられる状況を問題視。「活動実態がなくなった法人の優遇措置には疑問がある」とした上で、こう指摘する。
「18万もの宗教法人を継承できる人は不足しており、不活動法人は増え続ける。税務当局と国、地方の宗教担当部局が情報共有を進めるのはもちろん、税務当局に税優遇を取り消す権限を与えることも検討すべきだ」

宗教法人には税制上の優遇措置が認められている。宗教活動でお布施をいくら受けようが法人税はかからず、宗教施設の固定資産税も非課税だ。大半の法人は帳簿を作る必要もない。もはや「特権」と言っても過言ではなく、これを狙った勢力が今も水面下で蠢(うごめ)く。宗教法人法を含む現行法制はこのままでいいのか。課題を考えたい。
不活動宗教法人 宗教法人のうち①代表役員が不在②礼拝施設がない-といった理由で宗教活動をしていない法人。税優遇の悪用などを狙って法人格の売買が横行している。令和4年末時点で3329法人あり、国は解散手続きを進めたい意向だが、現状はほぼ手つかずの状態。少子高齢化や宗教離れもあって、対策を放置すれば今後増える可能性がある。

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