斎藤幸平「企業に商品化される神宮外苑」の大問題 「私有地だから自由」は社会の豊かさを破壊する

2023年2月に事業計画が東京都に認可され、すでに工事が始まっている明治神宮外苑の再開発。約1000本の樹木が伐採されると日本イコモス国内委員会が2022年はじめに警鐘を鳴らしたのをきっかけに、反対運動が遼原の火のごとく広がっている。
なぜ、神宮外苑の再開発に市民がここまで反発するのか。経済思想の視点から、『コモンの「自治」論』(集英社)を8月に上梓した気鋭のマルクス研究者、斎藤幸平・東京大学大学院准教授に読み解いてもらった。
神宮外苑のような空間は「社会の共有財産」だ
――斎藤さんは、神宮外苑再開発の執行停止などを求める裁判の原告にも加わっています。なぜ、行動を起こしたのですか。
【写真】誰でも自由に出入りできた「建国記念文庫の森」は囲いで覆われ、多くの樹木が伐採される
1970年代の公害問題については、学者も弁護士や市民と連携して各地で訴訟を起こし、さまざまな権利を勝ち取って公害を抑えていくことに貢献した。一方、50年たった今、学者が訴訟で政府や企業に責任を問うような動きはほとんどなくなっていて、そうした状況をどうすべきか自分なりに考えていた。
そのようなときに、神宮外苑の再開発反対の運動をしている市民から問題の深刻さを教えてもらった。神宮外苑のような空間は「コモン」(社会の富、共有財産)であり、それは私たちの手で守るべきものだ。
共編著『コモンの「自治」論』(集英社)で述べたように、破壊されようとする「コモン」を市民の手で守り、ケアしようという市民の動きは、自治の土台だ。神宮外苑に限らず、市民による自治を取り戻そうと、私自身も訴訟に参加することにした。
――事業者側は、民間事業者が所有する土地での再開発であることを強調しています。
そもそも神宮外苑の4分の1は、国有地だ。そして私有地の部分についても、何をしてもいいわけではない。私的所有の権利は、すべての自由を保障するものではないからだ。
さらに言えば、神宮外苑の公共性の高さには特別なものがある。歴史を見ればすぐにわかるが、100年前に全国から献金や献木があり、10万人以上の勤労奉仕でつくりあげられた。現代で言う、クラウド・ファンディングであり、ボランティアだ。戦後に国から明治神宮に格安で払い下げられた際にも、「民主的に管理すること」という条件付きだった。
だから当然、その再開発の仕方には市民の声が反映されてしかるべき。にもかかわらず、みんなが知らないうちに水面下で再開発の計画が立てられ、計画発表と同時に大きな反発が起きても、強引に工事が進められようとしている。
空や景観を企業が独占するために超高層ビルを建てる

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