《埼玉15歳イジメ自殺》野球チームの代表が頭に陰部を乗せ、チームメイトの親は「いじめられるほうが悪い」 15歳少年を追い詰めた”恐怖の二次被害”とは

〈 《埼玉15歳イジメ自殺》「飛び降りたのは自分の意思ですよね?」15歳少年を追い詰めた、加害生徒の父親と祖母の”強烈発言”とは《録音あり》 〉から続く
2019年9月8日に自殺した埼玉県川口市に住む特別支援学校1年の男子生徒・小松田辰乃輔さん(享年15)。辰乃輔さんは長くいじめに苦しんでいたが、最初に発覚したのは小学校高学年の頃だという。辰乃輔さんが小学校5年生のときに入団した少年野球チームで、他のメンバーや代表者からいじめを受けていた。(全2回の2回目/ 前編 を読む)
小学6年の夏休みの合宿中、辰乃輔さんたちはトロッコ列車に乗る機会があった。しかし、同じ学校の児童Bを含む他のメンバーから、一緒に乗ることを拒否されたのだ。
「Bは原発事故の後に福島県内の被災地から転校してきた子で、当初は、『放射能がうつる』などとクラスメイトから嫌がらせをされていたんです。それを見た辰乃輔が私に『放射能は本当にうつるのか』と聞いてきて、『違う、うつらない』と答えました。それから、辰乃輔はBを守るようにしていたようなんですけどね。逆に辰乃輔をいじめるようになっていたようです」(辰之輔さんの母親)
野球チームの代表者が、陰部を頭にのせる性加害
同じ合宿の最中に、チームの代表者の大人が辰乃輔さんの頭部に陰部を載せる性加害もあり、辰乃輔さんは2015年8月31日、「学校に行くなら死んだほうがマシ」と言うようになり、9月下旬に自室で首を吊ろうとした。母親が発見して一命を取り留めたものの、入院を余儀なくされた。
「性被害を受けた後から、手洗いやシャワーの時間が長くなっていました。ガス代も高くなり、ガス屋さんからは『家族、増えましたか?』と聞かれるほどでした。それだけ、自分が汚いと思うようになっていました」(母親)
辰乃輔さんの母親が問題を学校に訴えると、9月29日にBの担任が立ち会って、辰乃輔さんの母親、B、Bの母親の3人による面談が開かれ、Bは謝罪した。しかし学校側は約1週間後の10月7日、事前に辰乃輔さん本人や保護者に伝えることなく、辰乃輔さんとBが話をする機会を設けた。「いきなり加害者と話をさせられたことを嫌がって、学校に裏切られたと暴れていました。加害者と話をするのは早かったんです。そのとき、『学校には行く気がない』と言っていましたので、2日間、休ませました」(母親)
「チームをつぶす気か」「いじめられる方が悪い」
それでも少年野球チーム関係の複数の保護者はいじめを学校に訴えた辰乃輔さん家族を悪者扱いし、家を訪れて母親に対して「チームをつぶす気か。中学校に行って、いじめられなくなると思うなよ」「いじめられるほうが悪い」「B家を責めるな」などの発言をしている。辰乃輔さんは自宅でその様子を聞いていた。
辰乃輔さんは後にノートでこう書いている。
〈 <心に思った事 ぼくは、バカだから、Bにいじめられている事に気づくのがおそくて、気づいたら、頭の中がぐちゃぐちゃでどうしていいか、死のうとしたけど、母さんに見つかっていなくなれなかった。…(略)…△△△(少年野球チームの名前)の人たちが家に来たりして、いじめられるほうがわるいと何回も言われて、こんなに言われるなら、死んだほうがいい。…(略)…どうやって死んだらいいか、考えます>(16年1月5日)〉
報告書によると、少年野球チームの関係者は全員、聞き取りを拒否している。
「ぼくは、いなくなります」
さらに中学校に入ってもいじめは続いた。野球ではなくサッカーの部活を選んだ辰乃輔さんだったが、2016年の5月ころから、サッカー部の部員とのトラブルを担任に訴えることが多くなった。
「サッカー部員との話し合いもありました。主犯格の生徒はいじめの事実を認め、『自分がいじめられないように(辰乃輔さんを)いじめた』と話して謝罪しました。そのため、部員との間ではわだかまりはなかったのですが……」(母親)
しかし、サッカー部の顧問は事実確認も指導もしなかったという。先生に言ってもなかなか伝わらない。2学期が始まった日に、その苛立ちをノートに書いている。
〈 <9/1 ぼくはサッカー部の友だちからいじめられている。先生に話をするとすぐにあいてに言うってまた見えないところでいじめられる。だから先生に話にいったりすることが怖い>〉
それから半月後の9月18日に体育祭があり、辰乃輔さんはその翌日に自殺未遂に及んでいる。19日の午前9時50分ごろに自室のドアノブで首を吊り、母親に発見されて市内の病院に救急搬送された。ノートには遺書が記されていた。
〈 <9/18 今日、がんばって体育さいに行った。やっぱり何もかわらなかった。ぼくは、1人だった。サッカー部のぼくをいじめた人、クラスでぼくをじゃまにおもった人、ぼくは、いなくなります>〉
学校は、9月21日に「いじめ問題対策委員会」を設置したが、「学校としての重大事案が発生」とはしていたが、いじめ重大事態(いじめの結果、自殺未遂があった)との認識はなかった。1週間の調査で出された報告書(9月29日)では、「いじめに関する内容は特定できず」とした。つまり、学校は、いじめの有無を曖昧にし続けた。
この頃から、辰乃輔さんは自殺未遂を繰り返すようになる。10月25日に自殺未遂に及んだときは、学校の記録は「今回の自殺未遂の原因が学校側にあるのではないかとの発言もあるが、学校で調べたところ、いじめを想定するような事実もなく、9月19日以降登校もしていないので、学校側で原因になるようなことはないと伝える」などと、いじめの事実や因果関係を否定していた。
2年生になった1学期の2017年4月10日に、辰乃輔さんはマンション3階から飛び降りた。それでも学校の反応は鈍く、2学期になると市の教育委員会が調査委員会の設置に向けて動き出し、11月2日から調査委が開催された。
ただ調査委の設置について、辰乃輔さんと母親は報道機関の取材で初めて知ったという。市教委は調査委を「秘密会」とし、本人には伝えていなかったのだ。さらにこの時点でも、「いじめ重大事態」という認定すらされていなかった。そんな中で辰乃輔さんが自殺した。そのため、母親は調査委の解散を要望。その後、新しい調査委員会(新調査委)が設置された。
「辰乃輔が生きているときに二次被害を認めてくれていれば…」
辰乃輔さんの死から約4年後に発表された新調査委員会の報告書では、主な4つのいじめ以外にも、学校のいじめ対応の不備、謝罪の会などを二次被害と認めている。いじめ解決の希望が叶わなかったこともあり、長期間にわたり、精神的苦痛を伴うことにもなった。
「最初の調査委は秘密会でしたし、きちんと機能していませんでした。そのため、話し合いの場での音声データも渡せていませんでした。もしデータを出せたとしても、前の調査委の委員は聞かなかったかもしれません。新しい調査委では、音声データをきちんと吟味してくれました。その委員たちのおかげです。ただ辰乃輔が生きているときに二次被害を認めてくれていれば、もう少し頑張れたのではないかと思ってしまいます……」(母親)
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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)
(渋井 哲也)

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