原発処理水の「海洋放出」強行で、漁業者は窮地に 中国が輸入規制措置を強化、風評被害対策は力不足か

政府は8月22日、関係閣僚会議を開催し、トリチウム(三重水素)などの放射性物質が含まれる原発処理水を海洋に放出することを決定した。漁業関係者などが反対する中、廃炉推進のうえで不可欠な措置だとして東京電力ホールディングスが8月24日に放出を開始する。
【写真】ホタテ養殖の様子
東電の福島第一原発は、汚染水への対応に翻弄されてきた。原子炉格納容器内に溶け落ちた核燃料を冷やすための注水に加え、原子炉建屋内に流れ込んだ地下水と混ざり合って、膨大な量の放射性物質を含んだ汚染水が発生。「多核種除去設備」(通称ALPS)などを用いてセシウムやストロンチウムなどの放射性物質を除去する作業が進められてきた。
だが、トリチウムは取り除くことができず、約1000基のタンクに貯め続けている。約134万トンに上る、この処理水およびセシウムやヨウ素などの核種を取り切れていない「処理途上水」には、原発事故前の年間放出量の約400年分に相当する約860兆ベクレル(2020年2月時点)のトリチウムが含まれている。
安全性の確保や風評被害防止が焦点
政府は、処理水をタンクに貯め続けることは「廃炉作業の支障になりかねない」とし、2021年4月に海洋放出に関する基本方針を決定。東電は放出に必要な設備の建設を進め、今年6月に完成させた。
他方、2015年に当時の東電の廣瀬直己社長が「関係者の理解なくして処理水のいかなる処分も行わず、タンクに貯め続ける」と福島県漁業協同組合連合会に約束する文書を提出していたことから、安全の確保や風評被害防止が担保できるかが、放出実行の判断に当たっての焦点になっていた。
これらのうち、前者の安全性について、政府は国際原子力機関(IAEA)に評価を要請。今年7月に公表されたIAEAの包括報告書では「国際的な安全基準に合致し、人や環境への影響は無視できるほど小さい」という見解が示された。
一方、「安心」の課題については、風評被害防止対策の実効性が不透明なまま、見切り発車となった。
8月21日に岸田文雄首相と面談した全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長は「処理水の海洋放出に反対であることに、いささかも変わりはない」と発言。会談終了後、記者団の質問に、国と東電による一連の対策により安全性への理解は進みつつあるとしつつも、「(2015年の廣瀬氏の)約束は破られていないが果たされてもいない」との見解を明らかにした。

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