処理水問題で中国猛反発を「想定外」とする拙劣さ 岸田首相が「語る力」を示せないと政権危機加速

岸田文雄首相の”裁断“を受けて、東京電力福島第一原発事故に伴って発生し続ける「アルプス処理水」の海洋放出が始まってから1週間。猛反発する中国政府が「国民的な日本製品ボイコット」の動きを煽るなど、国内だけでなく国際社会での日本政府と東京電力による「放出強行」への不信や反発が拡大し続けている。
放出を主導した岸田首相は連日、外交ルートを通じて中国政府への抗議と「水産物全面禁輸措置」の撤回要求を繰り返すが、中国側は「聞く耳も持たない態度」(官邸筋)だ。そもそも、今回の中国側の対応を「想定外」とすること自体に「岸田外交の拙劣さ」(自民幹部)が際立ち、支持率低迷による政権危機も加速させかねない状況となっている。
「最後は自分が収める」と岸田首相
内外に複雑な波紋を広げる「処理水海洋放出」決定までの経緯を振り返ると、岸田首相の8月18日のアメリカ・バイデン、韓国・尹錫悦両大統領との日米韓首脳会談からの帰国を受け、政府は22日午前、関係閣僚会議で24日の海洋放出開始を決定。これに先立ち岸田首相はアメリカからの帰国翌日の20日に福島第一原発を視察、翌21日には漁業者代表らと面会して、理解と協力を求めた。
もともと政府は、関係者の説得を含め、ぎりぎりまで“円満決着”を狙っていたが、「岸田首相がアメリカからの帰国時に『最後は自分が前面に立って収めるしかない』と腹を決めた」(官邸筋)のが実態とされる。
もちろん、風評被害の当事者となる福島、宮城、岩手各県などの漁業者には「安全と安心は別問題」との政府への不信、不満が渦巻いている。このため政府は、風評被害対策と漁業継続支援に計800億円の基金を設置して「損害が生じれば東電が賠償する」方針を打ち出し、岸田首相も「基金活用や東電による賠償など、漁業者救済のため万全の体制を取る」と決意表明した。
岸田首相は24日の放出開始を受け、漁業者支援に総力を挙げる方針をアピール。中国の「日本の水産物・加工食品の全面禁輸」という厳しい措置には、すぐさま外交ルートを通じて即時撤廃を求めるとともに、風評被害対策への「万全の取り組み」(農水省)を決めたことなどは、「『放出強行』による政権運営へのダメージ回避を狙ったもの」(官邸筋)だったが、状況はさらに悪化しかねないのが実態だ。
日程上から「8月24日放出開始」決定
そもそも、政府が処理水を「夏ごろ」に放出する方針を決めたのは今年1月。それを受けて政府部内では、放出時期について「8月の上、中、下旬のいずれか」とする方針を固めた。ただ、放出に強く反対する中国との国際会議での厳しいやり取りを避けるため、まず「上旬」を断念。さらに18日の日米韓首脳会議と重なる「中旬」も見送られ、「下旬」だけが残った。

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