秋田県内でクマによる人身被害が相次いでいる。11日にも同県八峰町の男性が襲われ、1週間連続で人身被害が発生した。今年度の被害者は19人に上り、統計が残る1979年度以降最多の20人に迫っている。猛暑で果実など食べ物が不足している可能性が指摘されており、県担当者は「玄関を出たら、そこはクマの世界だと覚悟を決めて」と警戒を呼び掛けている。
「ラグビーのタックルを受けたような感覚。4メートルほど吹き飛ばされた」。潟上市にある家庭菜園から9日に帰宅中、クマ(体長約1メートル)に襲われた男性(68)は11日、こう振り返った。
栗の木がはえた道端のやぶから「ガサガサ」と音が聞こえ、連れていた犬が立ち止まった。男性も近づくと、突然やぶから秋田犬くらいの大きさの黒い生き物が飛びかかってきたという。倒れながら手にしていた草刈り機を向けると、生き物は山林に走り去った。
右手の甲に軽く爪が当たり、爪の形に肉がえぐられたという。「顔に当たったらもっと大事になっていたかも」と話す。
11日午後2時頃にも、八峰町峰浜坂形の畑で、農作業をしていた近くの無職男性(82)が襲われた。男性は顔にけがを負ったが、命に別条はないという。能代署によると、男性は右目のまぶたから口にかけてかまれたが、意識はあり、自力で歩けたという。
県自然保護課によると、県内の人身被害は11日までに19件19人。人数ベースでは、1979年度以降で最多だった2017年度の20人(19件)に迫る。
藤里町の白神山地世界遺産センター藤里館で自然アドバイザーとして活動する白鳥万里さん(24)は「猛暑でサルナシやヤマブドウといった、エサとなる果実が不作になっているのでは」とみる。白鳥さんは8月に山中で熟していない木の実や木の枝にクマの歯形とみられる跡があるのを目にしており、「食べ物がない状況なのでは」との見方を示す。
県は11日、相次ぐ被害を受けてツキノワグマ被害緊急対策会議を県庁で急きょ開いた。県自然保護課の近藤麻実主任はクマがエサを求めて人里に出没しやすくなっているとし、「県内のどこにいても遭遇する可能性がある。玄関を出たら、そこはクマの世界だと覚悟を決めてほしい」と訴えた。
家を出たらラジオやスマートフォンで音楽を流すことや、自転車でやぶ近くを通るときはベルを鳴らすことなどを呼び掛ける。「目撃が多い地点では被害の可能性が高い」と指摘し、住宅周辺に生ゴミを放置しないことも求めている。